「アメリカン・イディオット」@東京国際フォーラム・ホールC

国際フォーラム・ホールCのエスカレーターを上がると人込みの真っただ中でした。何かアナウンスをしていることには気づいていましたが、どうやら何かのトラブルがあって、まだ客席には入れないということのようでした。所定の開演時間である7時ちょうどくらいに客席のドアが開いて、25分遅れで始まるというアナウンスがありました。

 「アメリカン・イディオット」は2010年ブロードウェイ初演で、その年のトニー賞にノミネート、翌年に発表されたグラミー賞のミュージカルCD賞を受賞した作品です。グリーンデイというパンクバンドが2004年に発表した同名CDをもとに舞台化されたものです。といっても、ジュークボックス・ミュージカルとは別で、アルバムの段階で物語の原型があり、その時点ではパンクオペラと称していました。それが、ザ・フーの「トミー」と同じような過程を経てミュージカルとして、舞台で上演されたということです。

 歌詞は具体的なストーリーを説明しません。人物の心象が歌になっているということでしょうか。その点では「ムーヴィン・アウト」と共通しているとも言えそうです。ただし、「ムーヴィン・アウト」が既成の、ビリー・ジョエルが別の意図で作った曲を使っていて、しかも歌はひとりが専業で、ダンスで表現していたのとは違い、「アメリカン・イディオット」では、日記なのか手紙なのか日付の入った主人公の独白があり、歌はキャストそれぞれが、このストーリーを語るために作られたものをうたいます。

 主な登場人物は3人いて、それぞれがだいたいステージの3分の1ずつを使っている感じです。3人は同格ではなく、真ん中のジョニーが軸になって物語は進みます。背後にはたくさんのテレビモニターが設置されています。ジョニーの後ろには、古い家具調のブラウン管テレビがあります。あとはすべて液晶大画面のようです。テレビには「ロー&オーダー」や「CSI」その他、報道番組らしい声が聞こえてきたり、何か意味ありげな文字が映ったりします。
 オープニングのタイトル曲で、3人はテレビの言いなりになるアメリカの愚か者にはなりたくないと歌って、故郷の町を出て行こうとします。大きなことを言っていますが、ジョニーはバス代をママに出してもらっています。しかし、ひとりのガールフレンドが妊娠したために、一行は2人になります。
 大都会に着いた2人ですが、彼らには何の目的も目標もありません。やがて、ひとりが軍隊に入って、町を飛びだして都会に着いた一行はジョニーひとりだけになります。
 ジョニーはひとりの女と出会い、同棲をはじめます。同時期にセイント・ジミーという男に魅了され、彼の手ほどきでクスリに耽溺していきます。セイント・ジミーは現実の存在ではなく、クスリが生み出した幻覚か、クスリそのものの象徴であるかのように、ジョニーをクスリの深みへと引きずり込みます。同棲している女は、ジョニーにクスリをやめさせようとしますが、ジョニーはアメリカの愚か者への道へ一直線です。

 町に残った男は子供を産んだガールフレンドとうまくいかなくなります。彼はずっと部屋のカウチに座ったまま、酒に溺れています。
 軍隊へ行った男は戦地で負傷して、病院へ運び込まれます。献身的な看護師が彼の世話をするのは、彼の願望が生み出した幻覚なのか、現実なのか曖昧です。
 ジョニーはますますクスリへの依存を深めていきます。いまや方向は違いますが、3人とも、決してなりたくないと思っていた、アメリカの愚か者です。

 9月10日、つまり9月11日の前日、ジョニーはクスリをすべて捨てて、ネクタイを締めて働き始めます。町に残った男はカウチから立ち上がります。戦争へ行った男は杖と彼を看護していた女性に支えられながら、戦地から帰ってきます。

 12月。ジョニーは仕事が合わなかったのか、結局もとの町へと帰ってきます。カウチから立ち上がった男は、夫にはなれなかったものの、父親としての第一歩を踏み出したようです。ジョニーは都会で出会った、名前も思い出せない女のことを考えます。名前は思い出せませんが、ジョニーがクスリを抜くことができたのは、彼女のおかげであることは覚えています。父親になった男も、杖が必要な男も、失意のジョニーも故郷の町に受け容れられます。

 "don't wanna be an American idiot"と最初にうたいますが、ほぼ全員がある意味、そのAmerican idiot(アメリカの愚か者)です。退屈な田舎町でもてあましていたエネルギーのもっていきどころを求めて、彼らは動こうとして、失敗してしまいます。「春のめざめ」では命をなくしてしまう人も出てきますが、ここでは少なくとも生きています。より破滅的だった「春のめざめ」ですら最後のThe Song of Purple Summerに救いがあったように、「アメリカン・イディオット」の主人公もWhatsernameの力で、人生をやり直すことができるようです。

 攻撃的なタイトル曲から始まって、最後は情緒的には穏やかな印象の曲で締め括り、カーテンコールでは、キャスト全員がアコースティック・ギターを持って登場して、劇中には出てこないグリーン・デイの曲をうたいました。

 ブロードウェイ・キャストによるCDは2枚組で収録時間はボーナストラックを除くと80分くらい。舞台全編が100分くらいなので、ほぼすべてが音楽で表現されていることになります。残りの時間にセリフというかナレーションのような、日付入りの文章でストーリーが語られ、歌は人物の心象を歌う。舞台上では三人がスペースを3分の1ずつ使って、それぞれの物語を並行して演じている。日記はジョニーのものなので、ジョニーを中心に観てしまいましたが、次に観ることがあったら、別の2人の物語がもっと見えるかもしれません。これはそういうつくりの作品です。少し前に来日公演があった「ヘアー」が積極的に客席へのアピールをしていたのと比べると、「アメリカン・イディオット」にはやや突き放したところがありますが、別の形の温かみが感じられる舞台でした。

 CDのブロードウェイ・キャストは超一流で、両方を生の舞台で比べたらかなわないかもしれませんが、ライブは5割増し。来日キャストの舞台も十二分に魅力的です。

 ここから余談。しばらく前に「この森で天使はバスを降りた」の映像をyoutubeで探した時に、8年くらい前に高校生が演じているものを見つけたことがあります。その映像で主役を演じていたチェルシー・タービンという子が、今回の「アメリカン・イディオット」にアンサンブルで出ていました。プロとしてのデビューらしいです。

 この映像を観る感じだと、本領はもっと違う作品で発揮されそうですが、ここで彼女が何かをつかんで、飛躍できればと思います。



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