「日本人のへそ」@恵比寿・エコー劇場

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 エコー劇場は客席数たぶん150くらいの小劇場です。貸小屋の時はともかく、これまでに観たテアトルエコーの公演はだいたい満席でした。今回は井上ひさし追悼公演ということもあって、入口にはのポスターには「完売御礼」の札が貼り付けてあり、客席は補助席も出る超満員。私の席は固定の椅子ではありませんが、最前列でした。

 「日本人のへそ」は1969年初演、井上ひさしの演劇第一作です。NHKで放送していた人形劇「ひょっこりひょうたん島」で海賊トラヒゲを演じていた熊倉一雄がNHKのエレベーターで井上ひさしに、熊倉が所属する劇団テアトルエコーで上演する演劇の脚本を依頼してできたものということです。この作品と合わせて、井上ひさしはテアトルエコーのために6本の芝居を書いています。「表裏源内蛙合戦」「11ぴきのネコ」「道元の冒険」は他のカンパニーにより、最近も上演されています。
 別に追悼公演として企画されたわけではなく、話が動き出したのは2年前。ロビーに飾られていた井上→熊倉のハガキによると、多少の手直しも考えられていたようですが、たぶん、その時間はなかったでしょう。どんな構想があったのかは気になります。
 熊倉は41年前と同じ役で出演、演出も手がけています。ほかの出演者に初演を観た人はいない、スタッフも同様とのこと。

 チラシには「東北の山奥から上京してきた女の子が、如何にしてストリップ界のスターになったのか? 吃音治療ミュージカルでその全てが明らかになる。」とあります。劇中劇という構造になっていることが、ここで想像できます。物語について言うと、導入部はこの通りですが、この説明は一種のミスリードでしょう。
 劇場が暗くなると、言葉遊びの朗読が始まります。ひとつの文を読み終えるたびに、大きく息をつきます。ア行からラ行まで終わったところで、明るくなると、十数人の男女が正面を向いて並んでいます。服装はバラバラ。制服姿の人も何人かいます。次いで、ファイルを持った男。アイオワ大学で吃音治療の研究をしてきたと称する男は、ミュージカルを演じることが治療につながると説明します。なぜなら、吃音が出る原因は自分の思いを伝えたいという気持が強すぎるからなので、自分自身の気持ではないセリフなら大丈夫。みんなで一緒に言う時も安全。また歌で吃音になる人はいない。だから、ミュージカルを演じることで、吃音は治る。集まっている人たちの吃音の原因を説明することで、人物を紹介します。全員の説明をするのかと思ったら、5人ほどを残して、以下省略となりました。というところでミュージカルの始まり始まり。ピアニストが登場しますが、このピアニストも最初の音がひっかかるクセがあります。

 なぜか本当はどういう人物か紹介されなかったセーラー服姿の背の高い女性がストリッパー、ヘレン天津を演じます。岩手の山奥(日本のチベットと表現されます)の中学生だった彼女は、集団就職で東京へ出て、亀戸にあるクリーニング店で働くことになっています。旅立ちの前夜、娘を心配していたはずの父親が、心配を募らせるあまり常軌を逸し狂気の如き振舞いに及びます。これが、ヘレンのトラウマとなります。
 働き出したクリーニング店は主人に妾になれと言われたのを断ったためにクビ。主に風俗関係の職を転々とし、ついに彼女はストリッパー。ストリップ劇場は若き日の井上ひさしの職場で、実体験が生かされているのでしょう。劣悪な労働条件を改善しようとストリップ嬢、コメディアン、スタッフたちはストライキを始めます。
 ストに対して、劇場主はヤクザを使ってスト破り。ヘレンはヤクザの女になってストを裏切る。ヤクザはヘレンを組長に売る。組長は右翼の大物に売る。右翼の大物は政治家に。ヘレンは大物政治家の東京妻になります。
 といった調子で、話は生々流転。さらに劇中劇と外側との行き来が始まります。どこまでが虚なのか実なのか、その線がわからなくなっていきます。だれがだれなのかも曖昧になる。後から考えて、なぜヘレン役の女性が紹介されなかったのか、得心しました。

 時代は初演当時かそれより少し前でしょう。集団就職の一行は朝早く遠野から釜石線で花巻へ行き、そこから東北本線で上野に向かいます。私の祖父が花巻に住んでいたので、子どもの頃に何度も行った花巻駅のホームを思い出します。東北本線は急行でしょうか。上野には夜遅く到着。岩手と東京との距離感がいまとは全く違います。
 集団就職、労使対立、学生運動、左翼思想。このあたりからも、初演当時の時代があらわれています。 政治家から見舞いの果物籠が届く場面があるのですが、そこに書かれている名前が、当時の首相経験者も含む大物保守系政治家だったりもします。壁にかかげられる揮毫「臍」の署名は「角栄」に見えました。
 音楽の使い方は、物語を説明するコロス的なところ、共感を表すコーラスやデュエット、ソロは周りの人には聞こえていない内心の吐露とミュージカルの基本を守った形になっていると思いますが、そういうものに慣れていない1969年当時の観客は面白がりながらも、どこか戸惑っていたかもしれません。

 最前列だったので、ストリップの場面はかぶりつきの位置。「ジプシー」のストリッパーの場面を連想しました。ミュージカル・マニアだった井上ひさしはレコードや映画で得た知識を生かしたのでしょうか。
 現実と物語とのリンクのしかたからは「ファンタスティックス」を思い出しました。劇場で配られたプログラムによると、熊倉一雄と作曲の服部公一は「ファンタスティックス」を観たということですが、そのつながりはあるのでしょうか。

 2011年3月に同じ「日本人のへそ」をシアターコクーンで、栗山民也演出で上演するとのこと。劇場が大きくなり、キャストもかわり(笹本玲奈ヘレン? 石丸幹二 辻萬長)、演出がかわり、たぶん客層も違うでしょう。それにより作品がどう変わるのか楽しみです。


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残念です一点を除いて ...
もの凄い小説を残して ...
ご冥福を祈ります井上 ...

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