「イン・ザ・ハイツ」@東京国際フォーラム ホールC

 2008年トニー賞ミュージカル作品賞受賞作の来日公演です。
 ハイツとは、マンハッタン北部にあるワシントン・ハイツ。観光コースではないので、行ったことはありませんが、さらに北のクロイスター(メトロポリタン・ミュージアムの別館で、ヨーロッパの修道院を移築したもの。劇中のセリフにも出てきた)へM4という路線バスで行くので、通り抜けたことがあります。周りの看板はスペイン語、バスの中で聞こえてくる会話もスペイン語でした。ニューヨーク市内とはいえ、劇場街とはだいぶ様子が違います。
 よく泊まっていたアッパー・ウェストサイドのあたりにも、朝は保温ケースに入れたヒスパニック風朝食を売る人がいたり、夜はタコスの屋台が出て、周りにたくさんの人が集まっていたりしました。安上がりでおいしかったので、私もちょくちょく食べていました。最初の時に手間取っていたら、近くで食べていたヒスパニック風の人が、注文のしかたから、お勧めメニューまで、懇切丁寧に教えてくれたのを思い出します。「イン・ザ・ハイツ」は、あの時の親切な人たちの物語なのだと思います。

 サルサやヒップホップなど、音楽の使い方はミュージカルとして新鮮ですが、ストーリーは大枠は古典的なものです。「屋根の上のヴァイオリン弾き」のような、故郷消失の物語とでもいいましょうか。アナテフカでは、ユダヤ人がツァーに追い立てられますが、ワシントン・ハイツでは、ヒスパニックの住民たちが再開発、地上げなど経済的な事情により長年親しんできた街を追い立てられようとしています。そうした状況と、そこに住む隣人たちを歌うオープニング・ナンバー、"Tradidion"と"In the Heights"はよく似ています。細かい人物関係は違いますが、この枠組の中で生きている人が描かれているということだと思います。

 ウワサ話が大好きな美容室の人たちは、家賃が高くなったためにブロンクスへ引っ越していかなければなりません。隣のリムジン会社も経営がうまくいっていません。会社買収の話も出ています。社長の娘は成績優秀で奨学金をもらって大学へ行きましたが、ドロップアウトして帰ってきてしまいました。主人公ウスナヴィは、日本で言うと個人経営のコンビニのような小さな店をやっています、大して儲かりませんが、街の人たちには親しまれています。10代から20代の若い人、その親たち、さらにその親世代の人が生きていて、それぞれの世代やキャラクターの違いは音楽の違いで表現されます。ラテン音楽の事典のようです。

 この人物関係は「男はつらいよ」の柴又にも似ています。柴又には、出稼ぎで来ていついた人、集団就職で来た人が集まっていましたが、ここにいるのも、古くても60年くらい前にドミニカあたりから移ってきた人、そして、ここになんとか根を下ろそうとしている人たち、その子どもたちです。リムジン会社の社長の娘と、その会社で働く黒人青年(ヒスパニックの仲間ではない)との恋からは、さくらと博を連想しました。両親を早く亡くしたウスナヴィをずっと見守ってきたおばあちゃん(血のつながりはない)は御前様にあたるでしょうか。

 「屋根の上のヴァイオリン弾き」では、ツァーに逆らうことはできず、故郷アナテフカを出て行かなければなりませんでした。「イン・ザ・ハイツ」でも大きな流れは変えられないかもしれませんが、もう少しここでがんばってみようという希望と活力を感じさせる物語になっています。街のみんなの世話役だったおばあちゃんの存在がその象徴で、亡くなった時の悲しみは客席を含めたみんなのものだったのでしょう。だから、おばあちゃんを忘れないという思いがこもったラストに涙が出てきたのだと思います。

 着いた時には、東京国際フォーラムのパティオにタコスの屋台がいて、終演後に食べようと思っていたのですが、外へ出た時には、もういませんでした。ランチタイムだけだったのかな。観た後は、さらに食べたくなっていたので、ちょっと残念でした。


イン・ザ・ハイツ
SMJ
2010-08-04
アンドレア・バーンズ
ユーザレビュー:
日本語版に期待しまし ...
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