帝劇「レ・ミゼラブル」



吉原光夫 ジャン・バルジャン
川口竜也 ジャベール 
二宮愛  ファンテーヌ
屋比久知奈 エポニーヌ
熊谷彩春 コゼット
三浦宏規 マリウス
駒田一 テナルディエ
鈴木ほのか マダム・テナルディエ
相葉裕樹 アンジョルラス

 ステージに近い席で、ひとりひとりの表情までよく見えた。

ジャン・バルジャンのこと
 銀の燭台のエピソードで、魂を贖ったという司教の表情は慈愛よりも厳しさが際立っていた。優しい顔ではない。悪の道から抜け出て、善き人にならなければいかないと厳しく諭す顔。

 原作では、この後に少年が落とした小銭をジャン・バルジャンが(気づかずに)踏んで、返してと主張する少年を邪険に追い払う挿話がある。後になって小銭に気づいたジャン・バルジャンは少年を追いかけるが見つからなかった。このことが彼の改心、そして回心につながる。

 ミュージカルでは順序が変わっていて、司教の館へ行く前に、少年の小銭とジャン・バルジャンの無言劇がある。ここではしめしめといった感じの表情で小銭を拾うが、司教とのやりとりの後で、彼はおそらく激しく悔やむ。パリのプリュメ街の家に、エポニーヌが手紙を届けに来た時、お駄賃だと渡す際、断るエポニーヌに押し付けるように渡すのは、少年の小銭を奪ってしまったことが、ずっと心の棘になっていたのだろうと思う。

 モントルイユ・シュール・メールの町に産業を興し、多くの人々に職を与え、成した財産を貧しい人々のために使っていたけれども、ファンテーヌを救うことはできず、町の将来への道筋を確立しないうちに、すべてを捨てて、出ていかなければならなくなる。そこで幼いコゼットと出会った。
 道を失いかけたジャン・バルジャンの改心と回心に、新たな生きる意味と目的が示された。コゼットを愛するというより、コゼットを救うことが自分の魂を救うことだった。だから、臨終にはコゼットの赦しが不可欠だった。新演出版のコゼットは、彼女の存在理由が旧演出版よりも明瞭に示されていると思う。

※ジャベールのこと
 ジャベールはバリケード内で、ジャン・バルジャンが綱を切った時から混乱し始めた。バリケードが落ちた後、ガヴローシュの死体を見たことで、その混乱に拍車がかかる。徒刑場で過労のために死ぬ受刑者を見たことはあるだろうし、処刑に立ち会ったこともあるだろうけれども、彼は自ら人を手にかけたことはなかったのではないか。神の道を往く正しき者という自信が崩れた時に、人を死なせることに関わったことに耐えられなくなったのではないか。


※ファンテーヌというか女工たちのこと
 これは前から思っていたことだけれども、"一日の終わりに"の前半で、女工たちは工場長に迫られるファンテーヌに、仲間意識はないものの、それなりに同情的だった。ところが、手紙が読み上げられた後は、一斉にファンテーヌを責めにかかる。私生児がいることを責めるのは、19世紀前半という時代には合っているものの、預けているのがどういう子なのかは手紙だけではわからない。なぜ、ああまで責め立てるのか、責め立てられるのか。


※エポニーヌの帽子
 旧演出のエポニーヌは帽子をどうしていたかな?
 コゼットへの手紙を届けに行った時に、ジャン・バルジャンから坊やと呼ばれて帽子を脱ぐようになったのは新演出になってからだったと思う。この時は帽子を脱ぐ前から、後ろに髪が出ている。
 ジャン・バルジャンの前から走り去って、ひとり街を歩いている時にはまた帽子を被っている。On My Ownのメロディーにエポニーヌの気持は現れているけれども、歌の途中で帽子を脱ぐタイミングから歌詞にもメロディーにも現れない、彼女の気持の変化が読み取れる。帽子を脱ぐのはメロディーが変化するのとは別のタイミングだ。
2016年オリヴィエ賞授賞式でのロンドン・キャストのエポニーヌ(エヴァ・ノブルザダ)が帽子を取るのは、かなり早い。これはオリジナルのままではないとはいえ、旧演出版なので、別の意図があるのだろう。


 バリケード内へ戻る直前に、再び帽子を被る。一度被ってから、後ろに出ていた髪を帽子の中に収めて、"坊や"に身をやつす。
 撃たれて倒れる時に、彼女は帽子を落とす。落命して、運ばれていった後、ガヴローシュ(原作ではエポニーヌの弟)が拾って、マリウスに渡す。マリウスは帽子を腰に差す。ジャン・バルジャンが彼を運んでいく時も、帽子はそこに残っている。
 フィナーレの、天の使いとして現れるエポニーヌは帽子の後ろに長い髪が出ている。ジャン・バルジャンと会った時の姿であり、彼女本来の姿なのだろう。


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