「ウィキッド」@電通四季劇場・海

 「ウィキッド」を観るのは、たぶん前の東京公演の最後あたり以来です。あれから、「glee」の中でDefying GravityやFor Goodが歌われたり、ガーシュウィン劇場の舞台が映ったりしたので、ミュージカル・ファン以外にも多少は認知度が上がったでしょう。

 久しぶりに観ると、細かいところをたくさん忘れていることに気づきます。もしかしたら、初めて気づいたこともあるかもしれません。時計の文字盤の4が通常のローマ数字Ⅳではなく、Iを4つ並べたものでした。こういう風に書くこともあるというのをどこかで読んだ気がしますが、何か意味があるのかどうか。そして、ⅫまでではなくXIIIまであったこと。これは12より1つ多い13を魔女の1ダースというのを適用して、魔法の国の時間らしさを示したのでしょう。
 こういうことの積み重ねで異世界が構築されていきます。異世界で起きることは、現実世界の何かの投影です。話す動物が迫害されているのは?緑色の肌の意味は? そういうことが何を投影していると考えるのかは、観る人次第でしょう。
 今回はグリンダを軸に観ていました。人気者になりたがるブロンドのグリンダは、戯画的なステレオタイプとも取れますが、緑色のエルファバと出会ったことが、彼女を変えていきます。人気者の"良い魔女"を演じることで、彼女の"善"の一面が引き出されます。また、その"善"を通すためには権力や地位が必要と気づいた彼女は、より自覚的に"人気者"であろうとする。「踊る大捜査線」のセリフにあった"正しいことがしたかったら偉くなれ"と同じ哲学でしょう。表面的な"良い魔女"というだけでなく、狡さや悪さというものを知った上で、自覚的に"善"を選択しているから、大きな邪悪と闘い、排除することができた。しかし、彼女にとっては手放しで喜べる勝利ではなかった。そういう苦味のある結末でした。

 原作の「オズの魔女記」は、もっとずっとドロドロしたところのある、決して8歳から80歳までが一緒に楽しめる話ではなく、しかも結末の後味もよくないものでした。ミュージカル「ウィキッド」が苦味はあっても、気持のよい終わり方なのは、脚色と音楽の力でしょう。

 今回はグリンダを軸に観たと書きました。グリンダとエルファバは対等の主役であるのですが、演じる人の力量により、どちらかに傾くことがあります。最初にブロードウェイで観た時は、グリンダのクリスティン・チェノウェスが休みで、代役にローラ・ベル・バンディという人が出ていました。「ヘアスプレー」のアンバー(いじわるなブロンド)のオリジナル・キャストで、「ウィキッド」の後にLegally Blondeの主役でトニー賞にノミネートされたこともある人ですが、イディーナ・メンゼルのエルファバと向き合うと力の差が明らかになってしまって、その日は完全にエルファバが主役でした。
 今回のエルファバは、その日がデビューということで、経験の差もあるのだと思いますが、残念ながらグリンダと対等の主役には見えませんでした。静かにうたう曲や演技は悪くないと思いましたが、Defying Gravityの最高音が物足りず、また声量も十分でないために、一幕終わりの場を圧するエルファバの力強さが感じられなかった。後半のFor Goodでのデュエットは良かったので、回を重ねて、Defying Gravityを早く自分のものにできることを期待します。

 ところで、Defying Gravityはイディーナ・メンゼルが原型を作っていますが、パフォーマンスとしては、濱田めぐみやロンドンのレイチェル・タッカーの方がより高いレベルに達していると思っています。イディーナ・メンゼルの声にある、ちょっと甘ったれた感じがする音色が薄れているのと、最高音が安定して出ている分、エルファバのすべてを振り切る強さが感じられます。




 もう一点、顔を緑色にしていない時の表情の変わり方にも意味がありそうです。緑色だと、わかりにくい表情が明瞭に見えます。緑色だと、緑色であること自体を見てしまって、表情を見ていないのかもしれません。

 ブロードウェイでの開幕当初から人気は高かったものの、トニー賞を逃したり、評価には恵まれなかった「ウィキッド」ですが、ブロードウェイではロングランも10年め。「オズの魔法使」の物語を別の視点から観たというのが最初の入口ですが、そこからオズの国へと奥深く入っていくことで、さまざまな発見があるのが、ロングランが続く理由でしょう。




 
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