「三銃士」@帝国劇場

 「三銃士」の物語は、子ども向けの本と「ダルタニヤン物語」の完訳を読んだのと、映画を何通りか観たのとで、ある程度知っているつもりです。「三銃士」物語は「ダルタニヤン物語」の序盤で、ダルタニヤンが銃士隊に加わるまでの話。つまり、「三銃士」というタイトルは主人公のダルタニヤンを含まないわけです。また三銃士と言っているのに、ほとんど銃を使うところがない(舞台版では一度も使っていなかったと思う)のも不思議なところです。
 三銃士の物語は全11巻の「ダルタニヤン物語」の最初の2巻、大人向けのところなど一部割愛されているジュニア版でも350ページ。このミュージカル版はさらに省略されていたり、改変されているところもありますが、3時間を越える大作です。オランダでつくられた作品の日本初演ということです。

 最初に馬車に乗った旅の一座が登場します。馬車は幕のある舞台になっていて、幕が開くと顔の前に大きな面を当てた役者たちが時代背景や物語の設定を説明し始めます。背景には地面に突き立てた3本の巨大な剣。三銃士を象徴するものですが、これが木に見立てられたり、後には船の帆柱になったりもします。

 ガスコーニュ生まれの青年(少年?)ダルタニヤン(井上芳雄)は、近衛銃士隊に加わることを志して、パリへと旅立ちます。原作とは違い、父はかつて銃士隊にいたことがあり、いまの隊長とも親しかったので、紹介状を書いてくれました。父から授けられた剣を携え、姿形は変ですが家の大事な馬に乗ってダルタニヤンは旅立ちます。
 ダルタニヤンは真っ直ぐな気性ですが、別の言い方をすると思いこみが強くて、しかも短慮で短気です。ちょっとしたことで、すぐに無用に喧嘩に巻き込まれる、あるいは自分から仕掛けていきます。旅の途中で出会ったリシュリュー枢機卿(山口祐一郎)の腹心ロシュフォール(吉野圭吾)に喧嘩を仕掛け、いきなり剣を折られてしまいます。
 パリに着くと、街中で出会ったアトス(橋本さとし)、アラミス(石井一孝)、ポルトス(岸祐二)と立て続けに諍いを起こして、それぞれと決闘の約束をする羽目になります。この三人は銃士で、ダルタニヤンと比べるとずっと大人なので、決闘の代わりに友情を誓うことになります。
 喧嘩は無事におさまりましたが、今度はダルタニヤンの恋の暴走が始まります。街ですれ違った若く美しい娘(和音美桜)にひと目ぼれ。ボーっとして名前を訊くこともできません。
 三銃士たちは国王直属ですが、ロシュフォールは枢機卿直属の親衛隊員。枢機卿は俗世の権力にも執着していて、国王を陰から操ろうという企てを持っています。そのために銃士隊と親衛隊は対立しています。
 国王ルイ13世(今拓哉)は言ってみればボンボンで、簡単にリシュリューの口車に乗せられて、王妃アンヌ(シルビア・グラブ)とイギリス貴族バッキンガム公(伊藤明賢)の仲を疑っています。根も葉もないこととは言えないのですが、少なくともこの時点でのアンヌは夫に貞節です。アンヌのために働くのは侍女のコンスタンス、ダルタニヤンがひと目ぼれした娘です。一方リシュリュー側ではミレディー(瀬奈じゅん)という謎めいた女性が暗躍します。

 大きな設定とひとりひとりの行動は原作を踏襲していますが、その動機についてはミュージカル版独自のものとなっている人もいます。特にミレディーは原作では純然たる悪女なのですが、ここでは自分の汚名を返上したいがために、手段として悪を選ばざるを得なかった女性とされています。原作では、バッキンガム公を暗殺するし、他にも多くの人の死に関与して、執行人により処刑されますが、ミュージカル版は別の運命を迎えることになります。また、原作のコンスタンスにはポナシューという夫がいて、もっと物語に深く関わってきます。少し話がずれますが、王妃の侍女が夜になると自宅へ帰るというのが、ちょっと不思議でした。あの時代は王宮といえどもそんなものだったのかもしれません。
 曲はいわゆるミュージカルらしいもの、ロック調のものなどバリエーションが広がっていますが、いちばん印象的だったのは、アンヌとミレディーとコンスタンスが歌う「愛こそが命」でした。3人中2人がファンテーヌだからか、"I Dreamed a Dream"を連想しました。3人の年齢が少しずつ違うことで、夢を見ていた頃のファンテーヌ、夢が実現したと思い込んだ頃のファンテーヌ、夢が破れたファンテーヌが並んで歌っていたように見えました。

 恋と野心と冒険に満ちた活劇にはフランス、しかも現代ではなく17世紀という時代が合っているのかもしれません。原作はもっとあからさまですが、このミュージカル版の世界も恋や色ごとが何よりも優先されてもかまわないようです。よく言えば大らかですが、突っ込みどころの多い、かなり緩いところもある世界です。悪ふざけかどうかの境界線ぎりぎりの場面もあり、もっと絞り込んだ作り方という方向もあったとは思いますが、この物語にはこういう緩さが合っているようにも思います。ただ、刈り込んで引き締まった冒険活劇に仕立て上げたらどうなるかも観てみたいです。


三銃士 上 (角川文庫)
角川書店(角川グループパブリッシング)
アレクサンドル・デュマ
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 三銃士 上 (角川文庫) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



三銃士 中 (角川文庫)
角川書店(角川グループパブリッシング)
アレクサンドル・デュマ
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 三銃士 中 (角川文庫) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



三銃士 下 (角川文庫)
角川書店(角川グループパブリッシング)
アレクサンドル・デュマ
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 三銃士 下 (角川文庫) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



Die 3 Musketiere
Ariola
2009-04-06
Ost
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by Die 3 Musketiere の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



三銃士 [DVD]
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
2005-12-21
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 三銃士 [DVD] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



新 三銃士 1 [DVD]
Happinet(SB)(D)
2010-02-19
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 新 三銃士 1 [DVD] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 三銃士(新装版) (講談社青い鳥文庫) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル






ダルタニャン物語〈第1巻〉友を選ばば三銃士 (fukkan.com)
復刊ドットコム
A. デュマ

ユーザレビュー:

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ダルタニャン物語〈第1巻〉友を選ばば三銃士 (fukkan.com) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

ダルタニャンの生涯—史実の『三銃士』 (岩波新書)
岩波書店
佐藤 賢一

ユーザレビュー:

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ダルタニャンの生涯—史実の『三銃士』 (岩波新書) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック