「MITSUKO~愛は国境を越えて~」@青山劇場

 前日に見た天気予報では昼から雨ということでしたが、朝見た最新版では雨の降り出しは夕方になっていました。開演は12時30分なので、長くても終演は3時30分くらいだろうと思い、いちおう合羽は用意の上、自転車で出かけました。実際には、往路で合羽を着るほどではなかったものの小雨がパラつき、劇場ロビーに貼ってあった上演予定時間だと終演は3時35分でした。

 「MITSUKO」は明治時代にオーストリア貴族と結婚した日本人女性ミツコの人生を描いた新作ミュージカルです。2005年にウィーンで、小池修一郎の脚本・作詞・演出、フランク・ワイルドホーンの音楽により、コンサート版で上演されたのが最初。去年、ワイルドホーン作品で構成されたコンサート「Frank & Friends」の第一部として上演。そして、今回は2幕のミュージカル・ドラマとして世界初演ということになります。ミツコ(安蘭けい)、その夫ハインリッヒ・クーデンホフ・カレルギー(マテ・カマラス)、次男リヒャルトの壮年期(増沢望)、リヒャルトの妻イダ(AKANE LIV)は去年のコンサート版に引き続いての出演で、リヒャルトの青年期は去年の井上芳雄からジュリアン(Wキャスト)に替わりました。
 コンサート版の物語は、壮年リヒャルトを語り手に、ミツコとハインリッヒの結婚、7人の子供を授かった2人の幸福な生活が描かれていくまでは良かったのですが、夫が突然亡くなってからのミツコの物語に魅力が乏しく感じました。日本女性としての誇りを守ろうとする生き方が、よく言えば孤高、言い方を変えると人を遠ざけ、子供たちとも疎遠になってしまう。実在の人物の物語なので、やむを得ないところではありますが、後半が物足りない印象でした。

 コンサート版は1時間くらいの長さだったのが、今回は休憩を挟んで3時間を少し越えています。簡単に言うと、1幕は「MITSUKO」、2幕は「愛は国境を越えて」でした。
 構成の根幹は同じで、壮年リヒャルトが語り手ですが、彼の話に聴き手がいます。ヨーロッパから亡命してニューヨークへ着いたリヒャルトはパン・ヨーロッパ運動についての講演を行っています。「カサブランカ」のラズロのモデルという話を否定したりします。(でも、終盤のウィーン脱出の場面、リヒャルトの妻イダが帽子をかぶった姿は「カサブランカ」のイルザそっくりでした) その講演に来ていた日本人学生・百合子(大月さゆ)がリヒャルトが語るミツコの物語に聴き入ります。

 1幕では、東京でのミツコとハインリッヒの出会いから結婚、渡欧、7人の子供を授かる幸福な生活、ハインリッヒの突然の死までが描かれます。近代で初めて日本人女性と西洋人男性とが「愛は国境を越えて」正式な国際結婚をします。やがて、皇后からの祝福と激励を受けての離日、領地での貴族の妻としての生活が始まります。学問のないミツコですが、状況が彼女に深い思考をさせることになります。夫のハインリッヒも、貴族の妻としての役割を果たすためにもと、ミツコに家庭教師をつけて言葉や基礎教育を身につけさせます。前半は、ミツコの成長物語とも言えます。しかし、夫ハインリッヒはミツコの人生の道筋をつけかけたところで、突然に亡くなってしまいます。事実に則っているので、仕方がありませんが、物語としては困ったタイミングです。ハインリッヒ亡き後の、クーデンホフ・カレルギー家の爵位と財産の相続をめぐる争いが描かれます。裁判に勝って、自らの地位を確かなものにしたミツコは、「後ろを振り向かずに」と歌い、子供たちを連れて領地を離れ、ウィーンへ移り住みます。

 2幕は、華やかな仮面舞踏会で始まります。子供たちには高度な教育を受けさせ、彼女自身は社交界で生き生きと暮らします。しかし、成長した息子たちは、ミツコの意に反した女性と結婚。彼女は息子の妻に会いたくないという理由で彼らを避け、息子たちも彼女と疎遠になっていきます。唯一、オルガという娘だけが残ります。
 このあたりから、物語の中心はリヒャルトに移っていきます。ミツコの友人で、彼よりも14歳年上の女優イダと、ミツコの反対を押し切って結婚したリヒャルトはやがて、力を増していくソビエト連邦に対抗するためにはヨーロッパの統一が必要だというパン・ヨーロッパ運動を興します。考えの基本は今のEUと共通するところもありますが、当時は非現実的と否定され、オーストリアは彼の理論よりもナチスを選びます。その結果、彼は亡命しなければならなくなる。
 亡命の直前に、リヒャルトが母を訪ねたのは、おそらくフィクションですが、ここで物語は最高潮に達します。ミツコは「後ろを振り向かずに」進みなさいと息子を送りだす。2幕ではいささか存在感が薄かったミツコですが、この一曲で彼女こそが主人公であることが明らかになります。
 話を聴き終えた百合子は、彼女の婚約者ジョニーをリヒャルトに紹介します。彼は入隊の登録を終えたばかりで、間もなくヨーロッパへと赴くことになります。やがて、アメリカと日本の間の戦争も始まることはわかっています。その時、百合子とジョニーはどうするのか。パン・ヨーロッパ運動を提唱するリヒャルトの答は、彼が母親から学んだ「愛は国境を越えて」。これで幕となります。2幕が「愛は国境を越えて」だと思うのは、こういうことからです。
 1幕と2幕が別の話のようにも思えてしまうなど、疑問なところもあるにはあります。大阪で始まって、名古屋、東京と移ってくる間にも、いくつか変更があったと聞きました。たぶん、まだこの作品は成長過程にあるのでしょう。

 フランク・ワイルドホーンの音楽はわかりやすい、覚えやすい、どんどん高い音に上がっていく派手さがある、つまりポップスのヒット・チャートに入ってきそうな曲調が魅力なのだと思います。どこかで聴いたようなフレーズが何か所か出てきます。そして、その魅力を最も引き出すのは、思い切り歌い上げるタイプの歌い手です。あざといくらいに歌い上げると更によい。その意味で、今回のキャストは適役揃いでした。単に上手いというより、力強さが必須なのだと、改めて思いました。

 カーテンコールで、主演の安蘭けいから震災についてのひと言メッセージがありました。それに引き続きキャスト全員による「後ろを振り向かずに」がもう一度。被災された方々への応援の意味を込めてでしょうか。有効な応援になるかどうかはわかりませんが、できることに力を尽くして行こうという意思表明と受け止めました。



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