「煙が目にしみる」@座・高円寺2

 咳が出たり、ちょっとだるかったりと微妙に風邪っぽい感じでしたが、この日も自転車。体温は、平熱よりほんのちょっと高めなくらいで、体の不快感は電車に乗っているより、自転車で動いている方がマシなようだという判断です。いつもよりもスピードを抑えめにして走りました。
 座・高円寺は3回目くらいでしょうか。地下2階と地上1階に劇場があります。トイレは地下1階。2階はカフェのようですが、まだ行ったことはありません。1階ロビーには、ここで上演予定のものから、ここで上演予定のカンパニーがよそで上演予定のものまで、チラシがたくさん置かれています。
 その中に「ユーリンタウン」の再演とキャスト・オーディションのおしらせというのがありました。一瞬戸惑ったのは、主演・別所哲也とあって、さらにボビー役のオーディションの告知が載っていたことです。前に日生劇場で上演された宮本亜門演出版では別所哲也=ボビーでした。細かい字のところを読んだら、別所哲也の役はロックストック。ロックストックは最初に出てくるし、登場場面は多いし、というよりほぼずっと舞台にいますが、主演かと問われると、いささか疑問です。

 さて、「煙が目にしみる」。劇団だるま座の公演です。チラシは前にもらっていたし、いい作品という話は聞いていましたが、観るのは初めてです。内容については何も知らずに行きました。
 明るくなると、白装束の男が二人います。お遍路さんで、サウナがどうとか言っているし、どこかの温泉にでも立ち寄っているところかとも思いましたが、二人の話はもっと強烈な熱さについてのものに展開していく。室内の貼り紙に「斎場」という言葉が見えました。二人は亡くなったばかりの人で、荼毘にふされるのを待っているようです。
 年長の男は60歳、自営業。妻は亡くなり娘は東京で、独り身ですが、若い恋人がいます。年下の男は50歳前でしょうか。前の年まで高校の野球部の監督をしていました。家族は妻と大学生の息子、高校生の娘。二人とも、医師からリスクを警告されていたくらいのことはあるかもしれませんが、本人にとっても家族にとっても予期も覚悟もない状況での突然死でした。
 亡くなっている二人は、既にあきらめているのか、自分の死を受け容れているようですが、家族は悲しむだけの心の準備もできておらず、事務的なことであるとか、お茶をいれるとか、雑事に取り組むことで、直面したくない現実から逃げています。泣いている人もいますが、この人も悲しみの感情に溺れているわけではなく、どこか覚めたそぶりも見せます。それぞれ気持のバランスを取っていますが、決壊寸前のダムみたいなもので、小さなきっかけで一気に流れ出してしまうでしょう。
 そのきっかけを作るのが、年下の男の母親です。70歳過ぎで、認知症が進行しています。なぜか、彼女には亡くなった二人の姿が見えて、話している声も聞こえます。このおばあちゃん(剣持直明)の天衣無縫ぶりには場内爆笑。それでいて、彼女を通して、二人のメッセージが伝えられると、それまで抑えられていた感情の堰が切れる。かなり大きなすすり泣きの声が、客席のあちらこちらから聞こえてきました。
 ひとつ不思議なことがあります。笑いの時は、周りの笑いの渦に巻き込まれる、あるいは自ら飛び込んでいくのに、泣きの時は、周りから嗚咽が聞こえてくると、なぜか、それが堰となってしまうようです。
 それでも、斎場の煙は目にしみます。外の高い煙突から出ていくのだから、直接目に入ってくるはずはないのに、やはり目にしみました。現実の斎場は、二度と思いを伝える機会が失われたことを思い知らされる場所です。私にはそういう後悔があります。ここに登場する家族は、最後の機会を与えられた。その意味で、この芝居は、家族の死の物語でありながら、とても幸福な物語でもあります。


煙が目にしみる
論創社
堤 泰之
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