「RENT」@シアタークリエ

 初めて「RENT」を観たのは1996年6月、トニー賞受賞の直後でした。端役から最有力候補と言われていたので、授賞式の前日に国際電話でチケットを予約。オーケストラ席(一階席)の後ろの方でしたが、やはり予約しておいたのは正しく、受賞直後はチケット難がもっとエスカレートしていました。ちなみに、このときはもうひとつ「王様と私」のチケットも一緒にとったのですが、こちらもリバイバル作品賞を受賞、というのは単なる自慢話です。それにしても、国際電話というところに時代を感じます。
 2年くらい後にブロードウェイでもう一回。日本初演、来日公演も去年のものも含めて何度か観ました。それに映画版、ブロードウェイ最終公演のDVD。数えたことはなかったのですが、こうして合わせてみると2ケタには乗っているようです。熱い人たちとは比べものにはなりませんが、私にとってはけっこうな数字です。1990年頃に、イースト・ヴィレッジの友人のアパートに逗留したことがあって、舞台になっている場所に親近感を覚えるということもあります。ライフ・カフェにも行ったし、11丁目とアベニューBの角を見に行ったりもしました。

 これまでに観たものは、基本的にはマイケル・グライフのオリジナル演出を踏襲したものです。映画はクリス・コロンバス監督ですが、メインキャストの大部分がブロードウェイのオリジナル・キャストで衣装もほぼ同じ。そうすることで、舞台版の空気を再現しようとしていたように思います。
 ボヘミアンたちの年齢は、ミミが19歳(これも本当かどうかわからない)という以外は特に指定はありません。1996年当時は20代半ばだったアダム・パスカル=ロジャー、アンソニー・ラップ=マークが40歳近くなった去年のツァー公演で同じ役を演じましたが、違和感はありませんでした。オリジナル・キャストとしてそれぞれの人物像を創り上げた彼らほど、ロジャーやマークを深く理解している人は他にいない、だから年齢に関係なく二人はロジャーそのもの、マークそのものなのでしょう。 
 1996年の「RENT」は同時代劇でした。コンピュータ・エイジの哲学、サイバースタジオという単語に時代が出ています。一進一退はあるにせよ同性愛者の社会的な立場は当時よりも強くなっています。最も重要なことは、エイズが"すぐそこに迫った死"のイメージとは言えなくなったことです。"No Day But Today"、"Seasons of Love"で語られる、今日という日を生きる哲学、1年=5256000分という時間の長さの発見は、時を越えても変わらない価値があるでしょう。マークの疎外感や焦燥感にも普遍性があるでしょう。
 すぐそこにある死は物語の中ではエイズが代表していますが、ジョナサン・ラーソンの生命を奪ったのは別の病気でした。マークはおそらく作者ジョナサン・ラーソンの代弁者だと思います。HIVに感染して死に直面している仲間たちにとは違って、どうしても当事者の感覚を持てず(だからライフサポートの集会で無神経な行動をとる)傍観者の立場に自分を置いてしまっています。ところが、そのジョナサン・ラーソン自身に突然の死が訪れる。このことで、オリジナル・カンパニーの「RENT」観は大きく変わったのではないかと想像します。だから、オリジナル・キャストによるオリジナル演出の持つ意味は大きい。
 しかし、時は進んでいます。初演から現在までの間には、同時多発テロや戦争でも多くの人が亡くなりました。死がすぐそこにあることを直視させられる状況が、1996年から現在までの間にさまざまな形で起こりました。「オペラ座の怪人」ならキャストの交代によるマイナー・チェンジで済みますが、同時代性の強かった「RENT」には、どこかで見直しが必要だったと思います。

 エリカ・シュミット演出によるシアタークリエ版「RENT」は、すべてをリセットし、脚本と楽曲から新たな「RENT」の世界を作り出そうという意図があるようです。セットも衣装も一新されています。最初は衣装の違いに違和感を覚えましたが、これはすぐに慣れました。ロジャーが幼く甘ったれた感じに見えましたが、これはロジャー母の電話での口調には合っています。いくつか釈然としないところはありましたが、結局のところは「RENT」の音楽と物語の流れは損なわれず、これはこれで別の「RENT」の世界になっていたように思います。"人生はRENT(借り物)"と歌う作品が、持ち家のように決まった形を持っては理にかないません。すべては借り物であって、どういう解釈をしようとも「RENT」は「RENT」ということでしょう。
 ただひとつ謎なのは十字架です。常に十字架が見えていて、葬式の場面では"JESUS SAVES"と電飾がついていました。偽善的な聖職者に対する皮肉なら、その時だけ見えればいいと思いますが、十字架はずっと見えています。何か意味があるのでしょうが、わかりません。

 2011年6月にオフ・ブロードウェイでマイケル・グライフ演出による「RENT」がオープンするというニュースがありました。去年ツァー公演に同行して日本にも来ていたという演出家が、オリジナル・キャストの2人と話し合い、同時代劇ではなくなった2011年に上演するのにふさわしい「RENT」を創り上げることを期待したいです。


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