「ワンダフルタウン」@青山劇場

 「ワンダフルタウン」は2004年にブロードウェイのアル・ハーシュフェルド劇場で観たことがあります。tktsで買ったチケットですが、最前列のセンターでした。主演女優ドナ・マーフィーの歯ぐきまで見える席から、クラシックなミュージカル・コメディを楽しみました。特に1幕終わりの「Conga!」は劇場を出た後も日本に帰ってからも、しばらく頭に残っていて、ブラジル海軍が列をなして踊る幻まで見える気がしたのを覚えています。
 3年か4年前だと思うのですが、深夜にたまたまつけたNHKのハイビジョンで、その「Conga!」が始まった時はびっくり。ベルリン・フィルのコンサートで「ワンダフルタウン」をやっていたのでした。調べたらDVDが出ていたので、即座に購入。CDで音楽を聴いているだけでもおかしいのですが動きがあるとおかしさが倍増します。DVDについては、前にちょっと書きました。
http://19601106.at.webry.info/201002/article_2.html
 そういう蓄積があったので、「ワンダフルタウン」のチラシを最初に見つけた時は思わず「Conga!」を踊りだしそうになりました。この作品は日本初演です。レナード・バーンスタインの音楽なのですが「ウェストサイド・ストーリー」や「キャンディード」とは段違いに認知度が低いでしょう。オペラ歌手が歌うこともある前述の2作品とは違って、都会的なジャズのようであったり、カントリー的であったり、アイルランド民謡や、初演当時に流行していたダンス・ミュージックを取り入れていたりもします。ベルリン・フィルのコンサートでも歌っていたのはミュージカル畑の人たちでした。

 さて、青山劇場の「ワンダフルタウン」。この劇場へはだいたい自転車で行くのですが、午後から雨になってしまいました。ブロードウェイの劇場で買った"Wonderful Town"のロゴ入り帽子をかぶって、渋谷駅から宮益坂を歩いていきましたが、傘をさしていたので、人目にはつかないでしょう。入口で気づいたのですが、この回は抽選会があって、何かプレゼントがあるようでした。しかし、メインの賞品はワコールの提供。仮に当たったとしても、ちょっと受け取りには行きにくそうです。

 ブロードウェイ公演では、舞台の手前側にオーケストラがいて、序曲が終わると沈んでいくというつくりでしたが、ここでは3層になったセットの上の方、左右に分かれています。20人くらいでしょうか。フルオーケストラのベルリンフィルと比べてはいけませんが、バーンスタインの序曲らしい音の厚さは感じられます。舞台の上では人々が動き出します。ガイドが旅行客を案内します。物語に関わるグリニッチヴィレッジの住人たちが紹介されます。そして物語の中心になるルースとアイリーンのシャーウッド姉妹が荷物を持って登場。
 姉ルース(安蘭けい)は作家志望、妹アイリーン(大和田美帆)は女優志願。故郷のオハイオにいてはその夢はかなえられないと2人して大都会ニューヨークへ出てきたばかりです。住むところも決まっていません。時代は1935年でいまよりだいぶのんびりしています。多少の偶然もあって、姉妹は芸術家たちの集まる街グリニッチ・ヴィレッジにあるアパートの半地下に住むことになります。1990年代ならイースト・ヴィレッジへ行くところでしょう。いまならどこでしょうか。
 半地下の部屋は外から丸見え。地下鉄工事(1940年開通のFか?)のため朝から晩まで地下で爆破作業が行われて爆音と激しい振動。前の住人が異性に対してとてもフレンドリーな女性だったために、彼女を訪ねる男たちが勝手に入り込んで来たりもします。故郷を思って涙したりしますが、それでも、姉妹はここにいて、チャンスをつかまなくてはなりません。
 ルースは出版社に原稿を持ち込みますが、すぐに郵送されてきます。アイリーンもオーディションに通います。仕事にはつけませんが、男たちがついてきます。彼女はだれかを特別に好きというのではなく、だれのこともみんなほどほどに好きになってしまうようです。特にご執心なのは、ドラッグストアの店長フランク(矢崎広)と新聞記者チック(照井裕隆)。フランクは彼女のために、いつもランチを無償提供したりしますが、アイリーンはただ彼が親切な人なのだと本気で思っています。彼女はフランクとチックを同じ日の夕食に招きます。
 「マンハッタン」誌の副編集長ボブ(別所哲也)は、ルースの原稿をちゃんと読んでくれます。しかし、彼女の作品はできの悪いロマンス小説の沈殿物を集めたような代物。(ここは、ルース主演のミニドラマとして提示されるのですが、ストーリーも衣装も動きも豪華なコントのようです)。それでも、文章力は買えるとボブはルースのアパートを訪ねてきますが、彼女は留守。居合わせたアイリーンはボブも夕食に招きます。
 アパートの上階には、フットボール選手のレック(宮川浩)とヘレン(星奈優里)のバカップルが同棲しています。1935年のプロ・フットボールは、現代の日本でいうとJFLのプロ選手並みのようです。ヘレンは故郷ではそれなりの家庭の生まれ育ちらしく、母親(初風諄)が訪ねてくるという連絡を受けて、恐慌をきたしています。レックをしばらく預かってという頼みをアイリーンはOKしてしまいます。
 そうして、思惑のある男たちにとっては気まずい夕食。ここは少しブロードウェイで観たものと違っていました。おそらく1953年版の脚本をもとに日本語版を作ったのでしょう。2003年版のCDにScript Adaptationというクレジットがありました。この場面に関していうと、おかしさは新しいバージョンが上だと思いますが、旧版の歌の多いやり方も悪くはありません。
 フランクとボブが先に出ていきます。アイリーンと2人になりたいチックは、ブラジル海軍の取材という仕事をでっちあげてルースを追い払います。言葉の通じないブラジル人たち。わかる単語は"Conga!"だけ。ブロードウェイでは、ここが最大の盛り上がりでした。若干物足りなく感じたのは、ブラジル海軍の人数の問題がひとつ。それに、盛り上がりに巻き込まれていくうちにすっかり解放感のかたまりになってしまうルースと、それをなんとか止めようとするアイリーンとの対比という構図が変わったことへの違和感のためでしょう。それでも、コンガのリズムには全身がざわざわするものがありました。ここで休憩。

 騒ぎの中で警官をひっぱたいてしまったアイリーンが留置場にいます。新聞にも、アイリーンのことが写真入りの記事になっています。ルースは気が気でありませんが、アイリーンの持ち前のキャラクターに魅せられた警官たちは、彼女を女神のように崇めています。アイルランド系ばかりの警官たちは、アイリーンのためにアイリッシュダンスを踊りながら、アイルランド民謡風の歌を歌います。
 ブラジル海軍取材の話はインチキでしたが、お詫びのつもりでチックはルースのために記者の仕事をとってきます。しかし、それを伝えようとしても珍しく怒っているアイリーンは彼の話を聞こうとしません。一方、ルースの書いた原稿を読んだボブはそれを高く評価して、マンハッタン誌に載せようとしますが、そのために編集長と争って、仕事を辞めてしまいます。
 ライターとしての仕事がないルースは広告宣伝の仕事をとってきます。人気のナイトクラブVillage Vortexのチラシを街頭で配る仕事です。ここでルースが歌う"Swing"はブロードウェイでは印象が薄かった(それでもトニー賞授賞式のパフォーマンスはこれでしたが)のですが、青山劇場版「ワンダフルタウン」では、最大最高の見せ場になっていました。広告宣伝の仕事ぶりを、ルースとしてはいちばん知られたくなかったボブに見られてしまいます。その様子から、モテすぎるために男女の気持に疎いけれども、姉のことはよくわかるアイリーンが、2人の気持を察します。

 アイリーンの女優志願、ルースの作家志望、ルースとボブの恋、レックとヘレンの結婚、いくつもの問題が終盤、一気に解決とはいかないまでもよい方向へ向かい、最後はハッピーエンドを迎えます。意地悪なところを見せた大家も、こずるいところのあるチックも根っから悪い人間ではないことがわかります。なにしろ初演は60年近く前の1953年なので古く感じるところはありますが、道具立ては変わっても人間の根本まではそう変わるものではなく、ハッピーエンドは気持がよいものです。落語の人情噺で暖かい気持になるのと同じことでしょう。

 ルースの安蘭けいは、妄想小説を実演する場面のコメディエンヌと、"Swing"のショースターがよかったです。
 アイリーンの大和田美帆は「ガラスの仮面」の時とは別人の声。モテていることが当たり前でそういう意識を全く持たないという、現実にはいそうもない人をソプラノ発声で話し歌うことで表現していたのでしょうか。きれいなソプラノで現実離れぶりがユーモラスに感じられました。ボブの別所哲也は、知性と筋を通す強さが、声の深さと声量に現れていました。
 このあたりの人物像もさまざまな状況も、すべて音楽で表現されている。ミュージカルなら当たり前なのかもしれませんが、実際にそうできている作品はなかなかないように思います。歌のないダンスシーン、歌もダンスもないコメディシーンも魅力的です。1953年の作品で、古く感じるところもあります。古く感じるというのは言い換えると、今までにどこかで観たことがあるということにもなります。つまり、ミュージカルに限らず、1953年以降の音楽、ダンス、笑いの原型が詰まっている作品ということもできそうです。

 平日の昼ですが2日に、客席でコンガを一緒に踊ろうというイベントがあるそうです。気持は動きますが…

1953年版CD

Wonderful Town (1935) / O.B.C
Decca U.S.
2001-09-25
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同じ原作によるミュージカル映画(音楽は別)

マイ・シスター・アイリーン [DVD]
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2009-06-24
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