「地域演劇の人々」@アサヒ・アートスクエア

 アサヒ・アートスクエアは吾妻橋際のアサヒビール本社並びの建物、例の黄金色があるビルの4階。屋上の展示物も含め建物自体がアートとして作られたようで外の階段といい、中のトイレといい、素材やデザインが不思議です。エレベーターで4階に上がり、ドアを抜けると、そこがホールです。ステージも客席も常設ではなく、空間は自由に使えるようです。

 天井まで本が詰め込まれた棚が2つ。2つの棚の間には、なぜか小舟が立ててあります。そこは劇団の稽古場兼事務所のようで、その手前にはデスクやテーブル、ソファ。ひとりの女性が入ってきます。その劇団の関係者らしい名前を言いますが、事務所の男は、その人物はがんのために入院していると答えます。容体はどうなのか、どこの病院にいるのか、男はそれには答えられません。
 少しずつ、人が増えていきます。劇団員たち、取材に来た地元紙の記者。公演の近い芝居の通し稽古をするためなのですが、重要な人物が風邪で熱を出して来られないので、代役が立てられたりする。
 ごく日常的なやりとりのうちに、少しずつ状況や人間関係が見えてきます。ここは弘前で活動する地域劇団の稽古場。客演の女優が上海から来たり、座付の脚本家が研修のために香港へ行っていたり、活動は地元だけにとどまるものではないようです。また、劇団たちの私生活についても語られます。エンゲル係数98パーセントという男、エンゲル係数を知らない女、シングルマザーとして生きている女たち。演劇では生活の糧を得られませんが、演劇抜きでは生きているとはいえない人々です。
 稽古している芝居は「夜のプラタナス」という、死にいたる病をかかえた作家と、彼の身の回りの世話をする姉妹の物語で、これは劇中の劇団ではなく、この「地域演劇の人々」を上演している弘前劇場の座付作家の書いた、弘前劇場のレパートリーのようです。セリフを5行足して、まるで別の話にしたと言っていましたが、もとの「夜のプラタナス」を知らないので、その変化は残念ながらわかりません。ただ、この劇中劇で「死」が大きなテーマになっていることと、前述のがんで入院している人の存在とは深く関わっているようです。

 通し稽古の予定でしたが、いろいろなことがあって中断し、途中で俳優が交代したりもします。劇中劇が進んでいる間にも、それを見ている劇団員たちは、さまざまな動きを見せます。何か重大なことが起こって、出て行ってしまう人もいます。
 劇中劇という二重の虚と地域劇場の人々の現実を描いた虚とを往き来しながら、終盤に来ると、この劇団の作品の特徴だという食事の場面になります。この食べ物にも凝るらしく、パンは市内の名店から焼き立てを運び、蕎麦は隣の部屋で打ったものを持ち込みます。虚の世界の中でも、食べることは実ということでしょうか。パンもそばも、実においしそうでした。
 終わった後、プログラムを見て気になったのは、がんで入院したという関係者と同じ名前が、スタッフの中にあったことです。これは虚なのでしょうか、実なのでしょうか。

 そばがおいしそうだったので、吾妻橋を渡って並木藪蕎麦へ。劇場へ向かう時には、入口に列ができていましたが、4時を過ぎていたのと、たぶん、入れ替わりのタイミングだったのとで、すぐに座れました。隣のテーブルからは韓国語、お座敷からは英語の会話が聞こえてきました。ここも国際的です。
 
 


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