「エリザベート」@帝国劇場

 帝劇「エリザベート」は、今年で初演から10年だそうです。宝塚版やウィーンからの来日版も含めて、何度も上演されてきています。私も全部ではありませんが、宝塚版を何通りか観たし、ウィーンのアン・デア・ウィーンでも観ました。
 上演を重ねるうちにキャストがかわるのは当然として、演出も細かなところ大きなところで変更があるようです。「私が踊る時」のように、ウィーンで追加された曲が、日本版にも加わり、別のもののように思えるところも多々ありました。私が観た回は、トート=石丸幹二、エリザベート=朝海ひかる、ルドルフ=浦井健治、ゾフィ=寿ひずる。石丸幹二のトートは初めて観ます。

 19世紀後半のオーストリア、エリザベートが皇帝フランツ・ヨゼフに求婚されるところから物語が動き出し、19世紀末に暗殺されるまでの、彼女の人生が描かれます。
 時系列に沿って話は進みますが、物語に入る前に大きな仕掛けがひとつ入ります。冥界で、暗殺者ルイジ・ルキーニの裁判が行われていて、そこでは動機が問題にされています。彼の弁明は、すべては黄泉の帝王トート閣下の差し金によるもので、証人はハプスブルク家の落日を生きた連中だと主張。亡者たちがエリザベートと自分との関わりを歌い始めます。
 この時、亡者たちの中にエリザベートの息子、皇太子ルドルフが2人います。マイヤーリンクで死んだルドルフと、幼い日のルドルフです。日本の小話に「頼朝公幼少のみぎりのしゃれこうべ」というものが出てくることはありますが、この幼いルドルフはそういうものではなさそうです。実は、ここに登場する亡者たちは、ハプスブルク家ゆかりの人々というわけではなく、トートの支配下にいて、彼の命令により、ハプスブルク家の物語を演じているのかもしれません。

 エリザベートの生涯がどれほどドラマティックなものだとしても、全生涯を3時間程度で描こうとすると、エピソードのほとんどは細切れで、それぞれのつながりはほとんどありません。おそらく、このミュージカルが生まれたウィーンの観客にとっては、説明不要でわかることなのでしょう。
 エリザベート、フランツ・ヨゼフ、ゾフィ、ルドルフのキャラクターさえ確立されていれば、そして音楽があれば、それで成り立っていたのではないかと思われます。ウィーンで観た時には、トートの存在が日本で観たものと、かなり違うことに驚きました。エリザベートの心の中にある闇のようなものと見えました。
 日本版では「愛と死の輪舞」という曲が加えられることで、エリザベートに一目ぼれしてしまうトートとなり、観念的な死が人間的なものに感じられます。かれは、常にエリザベートのそばにいて、彼女の人生に大きな影響を与える。ハプスブルク家の権威をゆるがし、皇太子ルドルフには死をもたらす。トートの存在によって、エリザベートの人生の節目が明確になっていきます。トートの歌声にエコーがかかっているのは、かれが生きた人間ではないことの表れでしょう。後半、エリザベートの父マックスがコルフ島の場面に現れる時にエコーがかかっているのも、その時は既に亡くなっている人だと思われます。
 ハンガリーとの関係も日本版で加えられたものですが、おそらく当時の周辺各国との関係の難しさを代表させたものでしょう。エリザベートとゾフィが嫁姑の争いをしている間に、サルデーニャに負ける。やがてイタリアが統一されてオーストリアを圧迫。プロシアに負ける。プロシアはドイツ帝国となり、こちらもオーストリアを圧迫。終盤の悪夢は、皇帝が、オーストリアという国が感じている圧迫感の象徴のようにも思えます。
  ウィーンでこのミュージカルが初演された1992年は、ベルリンの壁崩壊やソビエト連邦解体の直後で、ドイツ、ハンガリー、チェコスロバキアといったオーストリアを囲む国々が大きく変わろうとしていた時期です。一世紀前とは違って、オーストリアは没落に向かっていたわけではないですが、激動する中欧というところで、重なり合うものがあったのかもしれません。

 ついでに書きますが、シェーンブルン宮殿のフランツ・ヨゼフの部屋を見たことがあります。皇帝の部屋とは思えない粗末な狭い部屋。ベッドの脇にホウロウびきの洗面器。皇帝は朝4時には起きて、その洗面器で顔を洗い、5時には執務を始めていたそうです。エリザベートが朝5時に起こされるのは、そう理不尽なことではないでしょう。

 石丸幹二のトートは歌の強さと動きがいいです。特に「闇が広がる」のルドルフ(浦井健治)とのデュエットが圧巻で、この時は観ているだけなのに全身に力が入りました。しかし、せっかくの歌にエコーがかかりすぎなのがもったいない気がします。
 朝海ひかるのエリザベートは高音に不安があって、「私だけに」は物足りないのですが、低めの「私が踊る時」はよかったです。高い声が出ないわけではないので、それを安定させることができれば、観ている側も安心できます。子どもの時から亡くなる60歳くらいまでをひとりの女優が演じるので、実年齢いくつくらいの人が適切なのかわかりませんが、彼女の演じる子ども時代はかわいらしかった。身のこなしがきれいなのもいいです。

 終演後にトークショーがあって、いちばん膨らんだ話題は三者三様のトートのことでした。もう一度、別の人のトートを観たいところですが、チャンスがあるかどうか。


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