「父帰る」「地蔵教由来」@アトリエだるま座

  劇団だるま座のアトリエ公演です。「父帰る」は菊池寛、「地蔵教由来」は久米正雄の芝居。どちらも百年くらい前の現代劇です。2010年の視点からすると、衣装や人物たちの行動は、実は現代人を描いているマゲものの時代劇よりも、時代がかけ離れていることを感じるかもしれません。
 昔の本を読むのには、その本が書かれた時代を読みとろうとする意味もあります。しかし、歴史の研究をするのでなければ、たいていの場合、現代人にも共感できる要素を探しています。昔の芝居を上演する意味あるいは観る意味も、どこかに現代を探しているのでしょう。

 「父帰る」は30分くらいの短い芝居。時代設定は明治40年ごろということです。具体的には触れられていませんが、たぶん中国地方の県庁所在地クラスの都市でしょう。母と息子2人、娘1人の家族。兄は地方のたたき上げの役人、弟は教員、妹は女学校を出て嫁入り先を探しています。もとは財産のあった家でしたが、父が放蕩ですっかりなくしてしまいました。その父は、20年前に家を出ていったきり行方知れず。たまに家族の話題に出ますが、一家の稼ぎ手として、早くから身を粉にして働いてきた兄には、家族を捨てて出て行った父の話は不愉快です。
 そういう家族が夕餉をとっているところへ、タイトル通り、父が帰ってきます。年老いて、尾羽打ち枯らした風情。弟と妹には父の記憶がないので、たぶん父への幻想があったのでしょう。感無量で父を迎え入れます。母の思いはそれとは違うでしょうが、静かに受け入れる。父のいない20年ではなく、父のいなくなった20年を生きてきた兄だけは、父を許せません。20年間の自分の苦労、怒りを吐き出し、それを聞いた父は出ていきます。家長である兄が出ていってくれと言ったので、弟たちは父が出ていくのをいったんは見送ります。
 それから、改めて兄に向かって、本当にこれでいいのですかと問いかける。そして、父を追いかけて兄弟が出ていくところで終わりになります。

 時代劇としての表現のポイントは、仕事から帰ってきて洋装から着物に着替えること、食卓の場面など、ふだんの暮らしの動作の見せ方。着物に着替える人は、今でもいるかもしれません。「サザエさん」の波平さんもそうしていたし、向田邦子のドラマに出てくるお父さんもそうでしょう。食卓では、最初に汁椀を持ったらよかった。
 ドラマとしてのポイントは、兄の気持が変わる理由です。傲慢な態度を崩さず、強がりを言っている父が、実際には老いて体も心も弱っていることに気づいて、母が父を迎え入れようとする気持に共感したのか、強がっていただけで本心は違ったのか。漬物をひと口つまむとか、もっと父の帰りたい気持を示す具体的な行動があると、どうだったでしょうか。

 「地蔵教由来」は1時間10分くらい。こちらは一種のファンタジーです。なぜか「地蔵堂始末」だと思い込んでいました。このタイトルだと、合理的な結末がありそうなので、最後は驚きました。しかし、「地蔵教由来」ということなら、お地蔵さんを信仰するだけのできごとが次々に起こっても、まあ当然といえば当然です。
 こちらは久米正雄の育った郡山に近い、街道沿いの村でしょうか。簡単に言うと、バクチで散々に負けてスッテンテンになった男たちが、ちょっとした小銭稼ぎのつもりで、一芝居打つことを思いつきます。ボーっとした男を地蔵に仕立て、村人たちが集まったところで、地蔵に"奇跡"を起こさせる。信じ込んだ村人たちから賽銭を集め、そいつをいただこうという寸法。
 筋書き通りに進んで、村人たちは地蔵の"奇跡"を信じ、賽銭を出します。ただひとつ筋書き通りでなかったのは、"奇跡"が本当になってしまったことでした。仕掛け人以外の人たちは全員、地蔵を信じるようになる。「地蔵堂始末」なら、ここでなぜ地蔵の奇跡が起きたのか、理にかなう展開になるところですが、これは「地蔵教由来」。仕掛けのはずだった奇跡まで、真になってしまい、もうお地蔵様を信じるしかなくなってしまいます。そして、村の人々はみな、お地蔵様の教えを信じるようになったのでした、となって「地蔵教由来」。
 終演後の挨拶で正しい題名を知り、腑に落ちました。 ほんとうのところ、腑に落ちることを求めるのが間違いという指摘を受けたのかもしれません。

 「父帰る」は密度の濃い深刻な話でしたが、「地蔵教由来」はそんなバカなといってしまいがちな展開を大らかに笑う喜劇。色合いのまるで違う2作の同時上演を楽しみました。
 知名度のある「父帰る」はともかく、こうした短い、おもしろい芝居が、実はたくさん埋もれているのではないでしょうか。発掘という意味でも、おもしろい公演でした。

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