音楽劇「ライムライト」シアタークリエ

 映画はだいぶ前に一度観たことがあるけれども、覚えているのは大筋だけで、細かいところは記憶にない。舞台版は映画そのままではなく、加えられた要素、削ぎ落された要素があるだろうと思う。チャップリンがシナリオには書いたが、最終的に編集でカットした要素もあるのかもしれない。

 最初に設定された時代が1914年と示される。チャップリンがアメリカで映画界にデビューした年でもあり、また第一次世界大戦が始まる年でもある。サラエボ事件の号外が配られる場面がある。

 サラエボ事件で殺されたオーストリア大公はフランツ・ヨセフの甥で、その当時のオーストリア=ハンガリー帝国の皇帝はかなり高齢のフランツ・ヨセフ一世だったというところで「エリザベート」とつながる。

 落ちぶれた道化師カルヴェロがかつての仲間から20ポンドを借りる。20ポンドとはどのくらいの金銭価値があったのか。ほぼ同時代の「メリー・ポピンズ」では2ペンスでハトの餌を一袋買えた。2ペンスの6倍が1シリング。その20倍が1ポンド。そのさらに20倍。ハトの餌なら2400袋を買える金額だったと考えると…かえってよくわからない。ただ、財布の全額ではなかったので、その男はそれなりに羽振りがよかったのだろう。返してもらおうと現れる場面があったが、たぶん返してはもらえていない。

 自殺をはかったバレリーナのテリー。強い精神的なショックのために脚が動かせなくなったテリー。彼女の出自には、やはり時代が近い「紳士のための愛と殺人の手引き」の主人公モンティに似たところがある。事実としては貴族の血をひいているが、現状ではその権利は認められない。モンティはかなり思い切った手段で権利を手に入れようとするが、テリーにはそれができない。テリーが自殺を図った理由は間接的にだが、そのことと関わる。精神的なショックの理由もそこにある。

 カルヴェロはテリーを立ち直らせようと、励ましの言葉というかストーリーを語るが、それは彼自身に向けたメッセージでもある。そのことにテリーは気づいているがカルヴェロ自身はどうだろう。テリーはカルヴェロが心底まで落胆した時に励まそうとする。そこで励ます人、立ち直る人が逆転する。

 テリーはオーディションで認められて、バレリーナとしての役を得る。彼女の役にはジゼルのようなエウリュディケのような、死の世界を連想させるものがある。彼女が自殺を図ったこととは関係なく、一度は死にかけて、今も自分の死期を意識しているカルヴェロの気持の反映かと思う。

 ところで、公演が成功してテリーが出演するカンパニーはヨーロッパ大陸ツアーへ行くという話が出てきた。第一次世界大戦が起こっているのに大丈夫なのか?とも思ったが、前線慰問公演ということだったのかもしれない。一流の大劇場ではなく、ミュージック・ホールの芸人という扱いだったのか。「メリー・ポピンズ・リターンズ」の"ロイヤル・ダルトン・ミュージック・ホール"よりは格落ちのミュージック・ホールであるらしい。

 テリーの真っ直ぐな気持をカルヴェロは理解しているが、受け止めることはできない。カルヴェロの対応は拒絶とは違うのだが、テリーには通じない。カルヴェロの心の中には、テリーに選んでほしい道筋が見えているけれども、それを伝えられる言葉がない。手を放して、送り出すしかないのだ。

 さて、映画はどうだったかな。久しぶりに観てみようか。たぶん舞台とは違う印象だろうと思う。
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