映画「女王陛下のお気に入り」

 女王役のオリヴィア・コールマンがアカデミー賞主演女優賞を受けたのと、ちょうどいい時間に始まるのと、公開2週間で1日当たりの上映回数が少ない(打ち切り間近?)のとで、この映画を選択。
 ちなみに一番人気は「翔んで埼玉」で、昼ごろチケット状況を見た時にはすでに夕方の回まで売り切れだった。

 イギリスの話だろうとは思っていたけれども、女王陛下が誰のことかわからず、メアリー、エリザベス、ヴィクトリアくらいしか思いつかなかった。始まって名前を呼ばれる場面があって、それでアン女王とわかった。そういえばアンも王族の名前だ。
 次にわからなかったのは時代。明らかに近代より前。楽器や銃は18世紀初めくらいだろうか…。フランスと戦争していて、百年戦争よりは新しそうなのと、オーストリア(ハプスブルク帝国)と同盟を結んでいるらしいので、やはり18世紀初めだ。フランス国王はルイ14世か。オーストリア(ハプスブルク帝国)はマリア・テレジアの2代前くらいか。
 ジョナサン・スウィフトが「ガリヴァー旅行記」の作者ではなく、スキャンダルに飛びついてきそうな新聞記者だかゴシップ屋だかとして語られていた。

 映画には出てこないが、ウィキペディアによると、アン女王の母方の祖父の名はエドワード・ハイド。その父親はヘンリー(ジキルではない)、息子もヘンリー(アンの叔父)。ヘンリーは医学者ではなく、エドワード・ハイドも殺人者ではない。

 さて「女王陛下のお気に入り」。この題名は女王のお気に入りである側近の2人の女性を指す。2人は従姉妹だが、親しかったわけではない。父親の借金のために身を落としたひとりが、女王の側近だったもうひとりを頼ろうとする。対等の従姉妹としてではなく、すがりついてきた者をいやいやながら助けるという体で、宮廷の使用人として置くことにする。床磨き用の灰汁で手の皮膚を傷めるのは水酸化ナトリウムか何か、強いアルカリ性だろうか。
 
 "女王の側近"にはいろいろな役割があるが、秘密を知ってしまうのもそのひとつ。
 女王の私生活上の弱みや秘密を知ることで、宮廷での自分の立場を私的にも政治的にも強くできる。競合する相手よりも優位に立つには、自分だけが知る秘密がほしい。また自分の本心を読まれてはいけない。従姉妹同士のふたりは決して本心は見せない。
 女王の寵愛を競い合う従姉妹同士のふたり。スタート時点で優位だった側は意地悪く振る舞うが、自分の優位は確かなものだと思っている。別の言い方をすると甘く見ている。
 一方の追う側が選ぶ手段は強引で、相手はどうなっても構わないくらいに思っている。もちろん、そんな考えは誰にも見せない。

 ふたりとも実在の人物で、女王の寵愛を競い合ったというのは実際にあったことのようだが、描かれているエピソードが実話かどうかは何とも言い難い、
 エピソードごとに章タイトルを表示するあたり、"おはなし"として伝わっているエピソードを紹介する体で、何か伝わっている"おはなし"があるように見せる仕掛けとも思える。

 また、ふたりの競い合いというか潰し合いを女王はどう見ていたのか。"すべて"ではないとしても、だいたいのところはわかった上で、ふたりに対していたのではないか。いちばんのタヌキは女王だろう。そのタヌキぶりがアカデミー賞受賞にふさわしい、見ごたえのあるものだった。

 字幕でちょっと気になったことが2つ。
 mailを"郵便"としていたけれども、郵便制度ができるのはヴィクトリア女王の時代で19世紀。貴族から女王への手紙なら、使用人が宮廷に届けに行き、女王の使用人が取りまとめて渡していたのだと思う。つまり、あれは"手紙"とすべきだったのではないか。
 duckを"アヒル"と訳すのも引っかかった。映った鳥がカモかガチョウで、"フォアグラにしてやる"というセリフもあったので、アヒルはないと思う。


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