「ラブ・ネバー・ダイ」日生劇場 2月7日昼

2月7日昼
ファントム:市村正親
クリスティーヌ:濱田めぐみ
ラウル:田代万里生
マダム・ジリー:香寿たつき
メグ・ジリー:咲妃みゆ

 日本初演を観たのが何年前だったかな。オーストラリア版のBlu-rayも観ています。

 もとはロンドンで初演(ラミン・カリムルーとシエラ・ボーゲス主演、ジャック・オブライエン演出)でしたが、人気と一部の楽曲の評価はそこそこあったものの、全般ではあまりうまくいかなかったようで、さほどのロングランにはなっていません。ロンドン・キャスト版のCDが出ていて、舞台裏の映像を収録したDVDがついていますが、現行版とは曲の入る位置も違います。



 その後でオーストラリアの演出家サイモン・フィリップスが全体の構成や脚本から手直しをしてBlu-rayにもなっているオーストラリア版ができて、それがアンドリュー・ロイド=ウェバーも気に入って、「ラブ・ネバー・ダイ」の決定版となり、これをベースに上演中の日本版もアメリカ国内ツアー版も作られているということです。

 以前は「オペラ座の怪人」の続編を作っているという話でしたが、物語上のつながりや楽曲の共通する要素はあるものの、切り離すというか切り替えて観る方がいいと思います。
タイトル曲のLove Never Diesにも変遷の歴史があって、最初にオペラ歌手のキリ・テ・カナワが歌ったときはタイトルも違いました。

 次にミュージカル俳優で「エビータ」ロンドン初演のエバ、「キャッツ」ロンドン初演のグリザベラで「サンセット大通り」のノーマをロンドンでもブロードウェイでも務めたエレイン・ペイジが歌った時は編曲がミュージカル寄りになりまsた。

 いっとき続編の製作がストップすると別のミュージカル「ビューティフル・ゲーム」で使われたこともありました。これは「ビューティフル・ゲーム」改訂版からはカットされています。



 さて 「オペラ座の怪人」のファントムは、パリ・オペラ座館内では彼に挑んでも敵う者のいない、絶大な力を持つ支配者で、また音楽の天才、物語のあるところまでは人間を越えた存在でした。本人はそうは思っていなかったかもしませんが、少なくとも周囲からは恐れられていたでしょう。
 「ラブ・ネバー・ダイ」のファントムはニューヨークのコニーアイランドにあるファンタズマという劇場…見世物小屋の影の支配者。音楽の天才なのと大きな力を持っているところは変わりませんが、パリ・オペラ座での彼ほど絶対的な存在ではない。人間らしい弱さも見せていて、周りもそう受け止めているようです。

 ファントムが執着しているのはクリスティーヌ・ダーエ。ヨーロッパでオペラ歌手として活躍している彼女の歌をもう一度聴くことを熱望しています。
 オペラ座で唯一のファントムの理解者(ファントムの支配下ではあったけれども)だったマダム・ジリーと娘のメグ・ジリーは、オペラ座を脱出してニューヨークへ渡る手助けをして、コニーアイランドではファントムの生活・経済・政治力を支えています、といえば響きはいいですが、そこでメグ・ジリーは本人の意識では人生を彼に捧げている、実際のところは犠牲になっています。
 それでもメグ・ジリーをメインにしたショーの出し物が作られようとしています。彼女はそのセンターで踊り、観客の喝采を浴び、ファントムにも評価されることを望んでいます。

 しかし、経済的な基盤と裏社会とはいえ自分の立ち位置を確立させたファントムの頭にあるのはクリスティーヌ・ダーエを呼び寄せて、彼女の歌を聴く、それも自分の書いた曲を歌わせることだけです。
 著名な大プロデューサー、オスカー・ハマースタインの名前を使ってクリスティーヌ・ダーエを呼び寄せる手紙を送り、その作戦は成功します。
※このオスカー・ハマースタインはロジャース&ハマースタインのオスカー・ハマースタイン二世の祖父で、葉巻の事業で成功した後に興行界へ進出。1907年にマンハッタン・オペラハウス(34th Street)を創設したところでした。
※このあたりの設定から「グレイテスト・ショーマン」でオペラ歌手のジェニー・リンドを呼び寄せるところを思い出されます。バーナムとジェニー・リンドのエピソードは事実に基づいているので、同じ史料から物語を作り上げたのかもしれません。また時代は何十年かずれていますが、見世物小屋のイメージにも共通するものがあるようです。

 クリスティーヌが夫ラウルと息子グスタフを連れて、ニューヨークに着いたところから、それまではファントムの心の中で止まっていたかれとクリスティーヌの物語が現実世界で動き出します。人々が集結するファンタズマはリアルな現実というよりも、歪みのある現実です。港からそこへ行く乗り物にもそれが現れている。
 過去の枠に囚われていないのは、オペラ座の事件の時には生まれていなかったグスタフ。恐れを知らない彼は、踏み込むべきではない領域にも無頓着に進んでいく。彼自身は何も気づいていませんが、大人たちが平穏な生活を守るために、心の奥底に押し込んでいた秘密を掘り起こしてしまう。
※「月のない夜」の歌詞によると、オペラ座の地下を抜け出した後、隠れ家にいたファントムをクリスティーヌは訪ねたらしい。「オペラ座の怪人」の結末で仮面を手にしたメグ・ジリーと母マダム・ジリーが隠れ家を用意したのか。

 グスタフは他者の秘め事を無頓着に暴いてしまうのと同時に、自分の中にある衝動にも気づき始めます。ボーイソプラノで"The Phantom of the Opera"の高音域を歌いだすグスタフの行動が人々を激しく大きく振り回す軸になる。
 軸の中心に近いファントムとクリスティーヌとラウルには何が起きているかが見えていますが、メグ・ジリーにはわからない。ファントムとクリスティーヌは問題に直面しなければならない。ラウルは逃げ場を酒に求める。
 メグは"水着の美女"のショーをファントムに認められることしか頭になかったが、それがかなわなかったことを知る。コップに一滴ずつ注がれてきた不満と鬱憤の水がついにあふれる。あふれてコップごと大きく揺れだす。マダム・ジリーはメグが取り乱していると言っていて、それはおそらく正しい。取り乱した彼女が攻める・責めるのは他者ではない。ただどうしていいかわからなくなっているのをどうすれば止めることができたのか。

 「オペラ座の怪人」は途中の惨劇はともかく、怪物だったファントムが人間になって終わるところに救いがあった。「ラブ・ネバー・ダイ」には怪物は出てこないけれども、人々の間に過去十年で積もり積もったものが惨劇へとつながっていく。「オペラ座の怪人」から発想された物語ではあるものの、続きとか続編とは別のものだろう。

 「オペラ座の怪人」の世界は閉ざされてはいても、地下は一種の楽園だった。「ラブ・ネバー・ダイ」の世界は華やかで外に開かれているようでも、美しさの下に地獄の幻想が隠れている。たとえ地獄でも美しさの幻想からは逃れられない。



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