シアターオーブ 劇団四季「パリのアメリカ人」

 今更ながら、原題はAmericanに不定冠詞がついているのに気づいた。パリのアメリカ人とは誰なのか。結末近くで、ある人物が"あなたこそパリのアメリカ人"と呼ばれるが、それだけが唯一の答ではないだろう。

 日本語題名は映画の「巴里のアメリカ人」ではなく、バレエ曲として演奏される時の「パリのアメリカ人」になっている。映画の舞台化ではなく、独自の設定が会ったり、独自の人物が出てくる。バレエ曲「パリのアメリカ人」ができるまでの物語になっている。バレエを上演しているのは、オペラ座のようだが、地下に怪人がいたところではなく、途中に出てきたポスターに書かれた名称シャトレー座のほうらしい。

 ガーシュウィンの没後に作られた、彼の楽曲から再構築されたミュージカルには「マイ・ワン・アンド・オンリー」「クレイジー・フォー・ユー」があって、共通する曲もいくつかある。英語上演の場合は、アイラ・ガーシュウィンの歌詞は変えていないと思うけれども、ここでは同じ曲でも違う日本語歌詞。
 「クレイジー・フォー・ユー」も「マイ・ワン・アンド・オンリー」もそうだが、もともとは別のミュージカルのために作られた曲、書かれた歌詞なので、セリフと歌詞との関係が独特、ということはあるかもしれない。

 音楽はふんだんに使われているが、歌は多くない。セリフも少ない。代わりにバレエが雄弁。珍しいタイプのミュージカルだ。おそらく過去のガーシュウィン楽曲のミュージカルを踏まえているのだと思うけれども、「マイ・ワン・アンド・オンリー」「クレイジー・フォー・ユー」のダンスはタップが中心だったのが、ここではバレエ。
 唯一のタップシーンは「クレイジー・フォー・ユー」へのオマージュで、ザングラーに扮したボビーを観たような気がした。アンリとママのやりとりから「クレイジー・フォー・ユー」のボビーとママを思い出したりもした。そういえば、あの曲、「クレイジー・フォー・ユー」では歌詞がなかったが、こちらは歌がある。逆に「クレイジー・フォー・ユー」では歌っていた曲が、演奏のみというのもあった。

 ブロードウェイ初演キャストのコンビ(ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルだったロバート・フェアチャイルドと英ロイヤル・バレエのソリストのリアン・コープ)によるイギリスでの公演を収録した映像をBroadwayHDで観られるようになっているのだが、事前に観なくてよかった。パリでの初演とブロードウェイでのロングラン後なので、2人とも歌やセリフに馴染んできているだろうけれども、あのオープニングは劇場の客席ならではのものだ。

 映画版の時代設定は制作年と同じ1951年頃だったが、この舞台版は戦争の爪痕傷跡がパリの人々にもアメリカ軍の兵士たちにも生々しく残っている、第二次世界大戦の終結直後に変えられている。"パリのアメリカ人"とは誰なのか、どんな人なのか。パリのフランス人たち、パリに残ったアメリカの兵士たちは忘れたい、目を背けたい過去を直視しなければならなくなる。
 戦争の記憶は忘れたかった、目を背けたかった、触れられたくなかった。語りたくもなかった。それでも傷跡を直視したことで、パリのフランス人も、パリに残ったアメリカ人も、新たな人生を見つける。そうしてバレエ"パリのアメリカ人"ができあがる。ドイツ軍人の前で歌うことでレジスタンスに協力したピアフの肖像は象徴的。「ばら色の人生」は彼女が戦争中のドイツに占領されていた時代に作詞した歌で、戦後のパリで広く愛された。







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