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zoom RSS 「死と乙女」@シアタークリエ

<<   作成日時 : 2015/03/27 01:46   >>

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 最初にお断りしておきます。この作品にはミステリ的な謎解きの要素があります。終盤について書くと、そのあたりに触れることになります。未見の方にとってはネタばれになるので、その旨ご承知の上で、お読みください。

 日本での初演は1994年で、その後も何度か上演されているそうですが、私は初めてです。戯曲の日本語訳も読めるそうですが、それも読んだことはありません。作者は南米の人ですが、この作品は90年代前半にロンドン、ブロードウェイで上演されて、映画にもなっていますが、それも観ていません。ブロードウェイ版のキャストはグレン・クローズのポーリナ、ジーン・ハックマンのハロルド、リチャード・ドライファスのジェラルドー。今回の上演を観た印象では、グレン・クローズは「危険な情事」、ジーン・ハックマンは「許されざる者」、リチャード・ドライファスは「ジョーズ」のキャラクターとそれぞれ重なる気がします。先に上演されたロンドンではすべて別の俳優で上演されていて、彼らの為に書かれたのではないですが、爆発的に出現する二面性など、彼らが映画で見せた役柄と通じるものがあるのでしょう。

 すぐ近くから、かなり激しく岸壁にぶつかる波の音が聞こえてきます。舞台設定と思われるチリは津波の危険があるので、この家は高い崖の上にあるものと思われます。窓の外のテラスは海を望めるのでしょう。夜、夫ジェラルドーの帰りを待つ妻ポーリナは、ひとりで暗いテラスに座っています。
 家の前でクルマが停まる音がします。ドアを開け、誰かが降りてくる。夫のクルマとはエンジンの音が違います。降りてきたのは二人。ひとりは夫のようですが、もうひとりは何者なのか? ここでの話し声で、彼女には誰なのかわかったのかどうか。拳銃を持ち出したのは神経質になっているからなのか、わかった上でなのか。

 作者アリエル・ドーフマンはアルゼンチン生まれのチリ系アメリカ人とプログラムには書かれています。はっきりとは書かれていませんが、チリをイメージしているようです。独裁政権時代に、反体制運動に加わり、秘密警察に拉致監禁された上に尊厳を踏みにじられた経験を持つ女性ポーリナ(大空祐飛)とその夫ジェラルドー(豊原功補)、秘密警察にいたのではと疑惑をもたれている医師ハロルドの三人のドラマです。
 ジェラルドーは法律家で、旧独裁政権時代の悪行を追究する査問委員会のメンバーにと、新政権の大統領から指名されたところです。
 医師ハロルド(風間杜夫)は、大統領府からの帰りにパンクで立ち往生していたジェラルドーを家まで乗せてくれた親切な人物です。ジェラルドーが引き留めるのを断って、いったんは帰っていきますが、真夜中になって、なぜか戻ってきます。彼はラジオのニュースでジェラルドーが旧政権時代の悪行を追及する査問委員会のメンバーに選ばれたのを聞いて、お祝いを言うために戻ってきたと言います。

 ポーリナはハロルドの声を聞いて、かつて彼女を拷問した秘密警察の仲間のものだと確信します。戻ってきた理由が査問委員会の活動を探るためというのはありそうです。彼女はハロルドを縛り付け、尋問しようとします。ジェラルドーは驚き、やめさせようとしますが、彼女は銃を持っていて、説得はできません。
 戻ってきたこと、声、におい、ニーチェの引用、拷問の時にかけていたシューベルトの「死と乙女」のカセットテープをクルマのステレオに入れていたことなど、状況証拠が次から次へと積み重ねられ、観客から見ても限りなくクロに近く思えます。しかし、罪を認定するには決め手に欠けます。仮に決定的でも、公的な査問委員会のメンバーで法律家でもある彼としては、私刑は認められません。ここからは解釈ですが、ポーリナは無茶であることを十分に承知で、ハロルドに罪の告白をさせようとしているように思えます。

 休憩時間にホワイエへ出たら、耳に入ってくるノイズがなぜか妙に神経に障りました。女性用化粧室からもれてくる音消しの流水音が、崖にぶつかる波の音と重なったからでしょうか。
 
 ハロルドの話を言葉通りに受け入れてみるとします。秘密警察の非道な行いが横行する場面に立ち会ううちに、善悪を判断する力が麻痺してしまい、彼の内なる悪が引き出される。やがて積極的に悪行に加わる、あるいは先導するようになる。そういうことはあるのかもしれません。被害者にとっては意味のない違いであり、彼に責任はあるのは間違いないのですが、すべての責任を負わせるのが正当なのかどうか。

 ポーリナは罠をかけて、ハロルドから"真犯人しか知り得ない事実"を引き出します。クルマを取りに行かせるという口実でジェラルドーを家から出し、ポーリナはハロルドと1対1になります。彼は椅子に縛られ、彼女は拳銃を持っていて、まったくもって公平ではありませんが、それはハロルドが秘密警察側でポーリナが囚人だったときもそうです。彼女は銃を向ける。

 そこで物語はいったん途切れます。舞台は暗くなり、客席に光が当たる。通路にドレスアップしたジェラルドー、そしてポーリナが現れて査問委員会の活動が成功したことが語られます。これはどう解釈したものでしょう。  
 ポーリナはハロルドを撃ったのでしょうか。もし撃ったのならジェラルドーはそれを知らないはずがない。彼は妻のために共犯者になったのか。それで、査問委員会の活動について晴れやかに語れるかどうか。
 撃たなかったとしたら? 告白書を手にしているので、ハロルドを完全に屈服させている。それ以上の復讐は必要ないと、彼女は考えたのか。それまでの強硬な態度は、告白書を手にするための計算ずくだったのか。

 二人が舞台へ上がろうとすると、窓の外のテラスに、始まった時と同じように女性がひとり座っていました。すべては幻想だったのかもしれません。ジェラルドーが帰ってきた時に聞いた、彼を送ってきてくれた人物の声から、かつて彼女を凌辱した人物を思い出し、空想の中で彼を罰した。 あるいはジェラルドーと結婚していることすら現実ではなく、彼女はひとりテラスに座って、過去と向き合っているのだとも考えられます。

 見応えのある舞台には、楽しい作品、魂をゆさぶられる作品などあるが、これは何と言うか、神経に障る見応えでした。できれば直面したくない真実をつきつけられる。目も耳もそらすことができません。


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