「10 MILLION MILES」@新国立劇場小劇場

 2007年にオフ・ブロードウェイで上演された作品です。出演者は4人。登場人物はもっと多いのですが、メインの2人以外は、あとの2人が次とさまざまな人物に変化して演じていきます。メインの2人が長い旅をしていく物語ですが、タイトルの"10 Million Miles"ほど長くはありません。1000万マイル≒1600万kmは地上にはない距離ですから、とてつもなく遠いことの比喩か、あるいは心理的な距離のことでしょう。525600分とは意味が違います。主人公のドウェインもモリーも他人との間に距離があり、自分自身との距離の取り方にも苦労しています。

 ドウェインとモリーは、フロリダからマサチューセッツまでの旅に、ドウェインのクルマで出発します。この時点では、ふたりが特別に親密だったということはなさそうですが、旅を続けるうちに、ふたりの距離は少しずつ近づいていくように見えます。とはいえ、ふたりとも身の上についての隠し事や作り話が多く、親しさは欺瞞によって、かろうじて成り立っています。
 しかし、その欺瞞を破る、耐え難いことが起こり、ドウェインはモリーを残して、どこかへ行ってしまう。もしも視線が10マイル先しか見ていなかったのなら、それは逃げたことになるかもしれない。でも、もしも1000万マイル先を見ていたのなら、問題と真摯に向き合うために、一時的に離れることが必要だったとも考えられる。

 旅の途中で会う人に訊かれるたびに、ドウェインはモリーとの馴れ染めについて、違う作り話をしていました。そして、モリーも話を合わせていました。長い旅の終着点に近づいたところで、ようやくドウェインの真実もみえてきます。ドウェインは、軍隊時代の友人から誘われて、自動車修理工場の仕事を始める決意をして、モリーと向き合う勇気も得ます。そして、叔母の紹介でパイ工場に勤め始めてアメリカン・パイを焼いているモリーと、新しい人生の長い道のりを歩み出します。

 主人公の2人もそうですが、旅の途中で出会う人たちが、いわゆるブロードウェイ・ミュージカルの登場人物とはだいぶ違います。ドウェインは奨学金をもらって大学へ行くチャンスもあったのに、そこから逃げて軍隊へ入りますが、そこからも脱落した男。モリーは15歳の時に妊娠して、父親に家から追い出され、それきり二度と帰っていなかった。旅の途中で出会うのも、ドウェインの母親も含めて、カントリー&ウェスタンが好きな、故郷の町から出ないまま一生を過ごし、そこでの暮らしに幸福を見出す人たちです。そうしたブロードウェイ・ミュージカル的でない人たちを表現するのにカントリー&ウェスタンが必要だったのではないかと思います。

 でも、そこが違いました。音楽を手がけたパティ・グリフィンはカントリーのシンガー・ソングライターなので、おそらく原曲はもっとカントリーらしい音の響きがあって、それが物語ともつながっていたのだと思いますが、曲調と音色にはカントリーらしさが不足していました。
 ピックアップ・トラックでふたりが長い旅を続けるシチュエーションにも、作り話を続ける男や語ろうとしない女にも魅力はあったものの、どうも音楽とのつながりに釈然としないものが残りました。

 終演後にバックステージ・ツアーがあったようです。参加者を募集していたことに気づきませんでした。当選者の番号を見たら、隣の席の人が当たっていました。

American Kid
New West Records
2013-05-07
Patty Griffin

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Living With Ghosts
Fontana a&M
1996-05-21
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Children Running Through
Ato Records / Red
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