「日本民話"鶴の恩返し" The Crane Maiden"」@神奈川芸術劇場

 10年くらい前のロンドン旅行中のこと。地下鉄で隣に座っていた学生とおぼしき若い男が対訳の「日本むかし話」を読んでいました。話しかけてみると、日本へ英語を教えに行きたいので勉強しているということでした。その時「いっすんぼうし」の"ぼうし"とはどんな"ぼうし"なのかと訊かれ、答に困ったのを思い出します。帽子ではなく法師だという説明はできますが、なぜ"ほうし"ではなく"ぼうし"と濁るのかはなかなか難しい。

 「鶴」は昔話の"鶴の恩返し"をイギリス人の演出家による解釈でダンス・パフォーマンスとして作り上げたものです。英語のタイトルは"The Crane Maiden"となっています。「鶴の乙女」といったところでしょうか。「鶴女房」や「夕鶴」とは違うようです。何より、イギリス人にとって"鶴"がどんなイメージの鳥なのかが興味深い。ヨーロッパの童話や昔話に出てくる鳥というと、アヒル、白鳥、ガチョウ、ツバメあたりはすぐに思いつきますが、鶴の出てくる話があったかどうか。

 鶴女房や夕鶴とは違い、罠にかかった鶴を助けるのは夫婦者の漁師です。鶴は最初は三人がかりで操るパペット。助けられた後、腕を鶴の長い首に見立てて女性ダンサーが踊ります。漁師の家へ来た時には人間の少女の姿になっています。漁師の女房は男性ダンサーで、狂言の女役のような感じです。
 謎めいた少女がやってきたことで、貧しい暮らしに心身ともに疲れ果てていた夫婦は、しばし活力と生きる喜びを思い出します。でも、すぐにまた貧しさという現実に押し流されそうになってしまう。その時に、少女が機織りをさせて、でも決して部屋を見ないでと言い出します。
 少女の織った布は高く売れますが、お金はすぐになくなってしまいます。夫婦は働きに出ようとせず、再び少女は機を織りはじめる。それが繰り返され、ついに日本人の多くが知っている結末が訪れます。鶴が去った後、女房は亭主の手を取って帰ろうとしますが、彼はその場にひとり残って、空を飛ぶ鶴の群れを見つめ続けます。

 舞台上には、ダンサーのほかに尺八(藤原道山)とナレーターがいます。語りは英語で、日本語字幕が出ます。同じ言葉や表現の繰り返しで文のリズムが作られています。語りは日本語でもよさそうなものですが、あえて英語のままにしているのはなぜなのか。作り手がイギリス人で、彼らが解釈した「鶴の恩返し」だから英語で語るというのと、日本語で語ってしまうと従来の昔話のイメージにとらわれてしまうからでしょうか。
 「鶴の恩返し」の物語からは"見るな"と言われると、どうしても見たくなってしまう人の性が語られることが多いですが、ここでは、ついつい安楽を求めてしまう人間の弱さが加わり、また鶴の気高さがダンスの中に織り込まれていたように感じました。


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