「お目出たい人」@アトリエだるま座

 題名は「お目出たい」とついていますが、物語の状況は逆です。古いアパートの一室に6人の男が集まってくる。そこで何が始まるかというとお通夜。6人は親戚ではなく、ほとんどが初対面です。むろん故人とはそれなりの親交はあったものの、横のつながりはなかったようです。

 時代は1980年代くらいでしょうか。室内には黒電話があります。故人の"米田さん"はフリーライターのようですが、パソコンもワープロもありません。ネットで調べるのではなく、せっせといろいろなところへ足を運び、いろいろな人に会って、話を聞き、そして原稿を書いていました。売れっ子とは言えないものの、彼が書く文章に対する編集者の信頼は厚かったようです。

 集まった6人はテレビ・ディレクターの篠原(楠田敏之)、寿司職人の野口(下平ヒロシ)、夕刊紙編集長の小松(イジリー岡田)、理容師の八坂(塚本一郎)、コワモテの金子(剣持直明)、そして故人といちばん近いところにいた葬儀の世話役をつとめる中島(西原純)です。
 揃ったところで、手順・段取りを相談しながらお通夜が始まります。最初のうちはお互いをよく知らないこともありギクシャクしていますが、少しずつほぐれていきます。やがて酒を飲み始め、酒癖の悪い野口が相手かまわず絡みだす。"米田さん"には自分がアルコール依存症ではないかとの懸念があり、断酒会の世話役をつとめる八坂に相談していたことがわかります。そういう風に、6人それぞれがどのように"米田さん"と関わってきたか、"米田さん"をどう見てきたかが明らかになる。"米田さん"は頼み事を断れない、心やさしい人ですが、酒の誘惑を断ち切れない心弱い人でもありました。それは集まっている6人にも、断ち切れない誘惑が何なのかの違いはありますが、似たところがあります。おそらく誰にも同じようなところがあるでしょう。
 "米田さん"のために集まった6人は、他人に誇れるような生き方をしているわけではないにしても、そう悪い人でもありません。前半はギクシャクしたやりとりにユーモアがあり、後半はそのユーモアの名残が告白の深刻さを和らげ、暖かく受け止める力になっていたように思います。
 葬儀と形見分けを終えて、6人が帰っていくところでは、映画「十二人の怒れる男」のラストを連想しました。激しいぶつかりあいがあって、全員と仲良く別れるとはいかなくても、"米田さん"を通じて、新たなつながりが生まれるということはありそうです。

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