「CAVA's BARBER―その床屋を待たせる客―」@アサヒ・アートスクエア

 アサヒ・アートスクエアには前に一度行ったことがあります。浅草駅から吾妻橋を渡ったところにある、屋上のオブジェが目立つビル内です。場所はわかっていて、ちゃんと間に合う時間に出たのですが、途中で電話がかかってきて、その対応をしていたために開演に間に合わず、10分くらい遅れての入場となってしまいました。

 タイトルからわかるのは床屋と客が出てくることくらいです。CAVAというグループのことは何も知りません。どうやらセリフがないらしいという話は聞いていました。

 席につき、舞台に目をやると、奥にピアノとダブルベースとアコーディオン/バンドネオンのトリオ。床屋が一人と客らしい男が二人、床屋の店内らしい空間にいます。床屋は立っていますが、客たちは座っています。ひとりは既に作業にかかっているようで、白い布をかけられている。もうひとりは雑誌を読んでいます。入口のドアとコート掛けがあります。ガラス張りで外から中が、中から外が見えるようです。店の形はあえて曖昧にしているようですが、住まいを兼ねているのか、奥に部屋があるようです。
 特にこれといった何かがあるわけではないのですが、どこかフランス風です。音楽の影響かもしれません。客が座っている椅子はごくシンプルな肘掛もないものですが、床屋の椅子として座る時には、マイムでそれらしく見せています。スウィーニー・トッドとは違い、和やかな雰囲気です。

 床屋とは別に、あるアパルトマンの部屋が出てきます。その部屋にいた若い女がメモを残し、帽子をかぶり、大きなカバンを手に出て行きます。しばらくして、その部屋に花を持っためかしこんだ男が入ってきます。(どうやら私が着く前に、床屋の客だったらしい) 男は女がいないのに気づき、あわてて飛び出していきます。

 女は床屋をのぞきこみ、店に入ってきます。女性客の髪を切る床屋もありますが、この店は違うようです。床屋は丁寧にお断りをしようとしますが、そこで女がだれなのかに気づきます。女は嬉しそうに店の中を見回し、客たちに愛想をふりまいたりもしますが、床屋は彼女を店の奥へ連れていき、たぶんそこでこんこんと説き伏せたらしく、きっぱりとした態度で追い出してしまいます。でも、実際に彼女が出ていくと気が抜けたようです。
 しばらくすると、今度はさきほどのアパルトマンの男が飛び込んできます。彼女を探しているようです。彼女はもういないのですが、忘れ物があったために、男は床屋が彼女を隠していると思い込んだようです。

 そして、それから追いかけっこが始まります。男と女の追いかけっこであり、過去と現在と未来との追いかけっこでもあるようです。花束の男は女を追い、女は床屋を追いかけます。回想場面があったり、同じ場面の別アングルが繰り返されたりします。

 言葉は使われず、ダンスとマイムで物語は表現されます。そうすると、かなり多くの要素が、観ている人の想像に委ねられることになります。例えば、床屋と彼女とはどういう関係なのか。彼女はどうして花束の男と一緒にいたのか、またどうして離れようと思ったのか。また、ここはどこなのか。
 上の文では、極力自分の想像を排したつもりでしたが、フランスだとかパリだとかいうことも、何も説明はありません。海外旅行中によく髪を切りに行くので、お国柄があるのは想像できるのですが、残念ながらフランスの床屋は知りません。1時間ちょっとの上演時間の間に、それなりに大きな都市の、中心部ではない街の床屋だと思い込んだようです。
 花束の男は少し前の流行語でいう、ちょい悪オヤジ風。女は都会的に洗練されたパリジェンヌ風ではなく、田舎のお嬢さんといった感じに見えました。悪い男に簡単にひっかかりそうですが、世界が違うと感じたらすぐに離れていく行動力はありそうです。男の方も別にだますつもりがあったわけではなく、彼としては本気だったから必死で追いかけたのでしょう。
 床屋と女とはどういうつながりなのか。彼女は懐かしげに床屋を見ていたので同郷の幼馴染までは考えました。かつては恋人同士だったということもあるかもしれませんが、それにしては彼女の床屋を見る目が無邪気過ぎるように思いました。床屋にとっては、尊敬する人のお嬢さんで、憧れる気持もあるけれども大切に扱わなければいけない女性といったところでしょうか。 あるいは、サブタイトルの"その床屋を待たせる客”が彼女のことだとすると、何か理由があって、故郷と彼女から離れたけれども、心の底で床屋は彼女を待っていたということもあるかもしれません。

 こういう解釈は心理テストのようなもので、正解があるわけではありません。観ているこちらの知識や経験、心理によっていろいろな見方や解釈の可能性が広がります。ダンス・パフォーマンスのようでもあり、言葉を使わないとはいえ演劇のようでもある、不思議な洒落た1時間でした。



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