「25周年記念公演 オペラ座の怪人 at the ロイヤル・アルバート・ホール」@日比谷スカラ座

 去年の「レ・ミゼラブル25周年記念コンサート」の興奮が少し醒めてきた頃に、そういえば2011年は「オペラ座の怪人」が25周年だなと気づきました。同じキャメロン・マッキントッシュのプロデュース作品だし、何かやるに違いないとツイッターやネットのニュースをフォローすること約半年。最初の段階でまずイベントがあることはわかりました。次に会場がロイヤル・アルバート・ホールであること。
 このあたりで、どういう形のイベントになるのかの想像を始めました。「レ・ミゼラブル」はジャン・バルジャンが主役ではありますが、群像劇の色が濃く、大コーラスに魅力があるミュージカルです。だから、キャスト、オーケストラ、コーラス合わせて500人以上、2万人以上入れるO2アリーナでのコンサートでした。対する「オペラ座の怪人」はといえば、怪人・クリスティーヌ・ラウルの三角関係が芯です。複数の筋が並行して進むのではなく、ほぼこの三者の関係だけを描いています。オーケストラやコーラスを厚くする意味はありますが、主な曲はソロ、デュエット、トリオと考えていいでしょう。会場が違うことも含めて、同じようなコンサート形式にはならないだろうけれど、ではどうするのか。
 キャストは怪人=ラミン・カリムルー、クリスティーヌ=シエラ・ボーゲス、それとマダム・ジリー=リズ・ロバートソンが発表されました。3人とも続編「ラヴ・ネヴァー・ダイズ」の同じ役を演じていたからでしょうか。かなり、遅れて他のキャストの発表がありましたが、なぜかラウルだけは空白のままでした。ひょっとしてコンサート形式でラウルは場面ごとに俳優が替わるのだろうかと考えたりもしましたが、8月の終わりだったか9月に入ったころだったかに、ラウル=ハドリー・フレイザーと正式な発表があったのでした。ラミン・カリムルーは去年のアンジョルラス、ハドリー・フレイザーは同じくグランテールです。

 10月1日と2日にコンサート本番があり、隠し撮り映像がyoutubeにいくつもアップされていました。ほとんどは、本編ではなくカーテンコールで、サラ・ブライトマンが登場して、4人の怪人と共に歌う映像でした。そういう映像を観たり、カルロッタ役が当初予定されていた若手のソプラノ歌手が急病のため、いまロンドンで出演中のベテランのカルロッタが代役を務めたことなどをネットのニュースなどで読みながら、日本の映画館での上映が始まるのを待っていました。そういえば去年の「レ・ミゼラブル」は1か月くらい間がありましたが、今回は3週間弱でした。

 ネット予約で日比谷スカラ座の1回目のチケットを取りましたが、平日の朝9時という時間のせいか、席はガラガラ。中央の横通路後ろの2列くらいは埋まっていたようですが、私の周囲は空気だけです。同じ列の真ん中あたりに1人座っていたくらいでしょうか。がら空きの「オペラ座の怪人」というのは珍しい経験です。

 予告が10分くらいあって本編の始まり。配給会社がつけた日本語のタイトルが表示されます。字幕は劇団四季の日本語歌詞を転用したようです。収録されたのが10月2日、クレジットタイトルなど映像の処理をしてから日本に映像が送られてきて、それから字幕をつけるとなると、既成のものを使わないと間に合わなかったのでしょう。

 最初に登場する競売人はアール・カーペンター。去年の「レ・ミゼラブル・コンサート」では司教だった人です。ジャベールや怪人役も長年つとめているベテランのごちそう出演というところでしょう。元カルロッタとか元マダム・ジリーとか元怪人あるいは現在ロンドンのハー・マジェスティーズ劇場に出ているキャストもいろいろなところに出ているようです。
 劇場と違って枠や幕がないのですが、スクリーンを使ったり、正面にあるボックス席を使ったりしています。物語の時代設定とロイヤル・アルバート・ホールが落成した時代とは近いので、ホールそのものを生かす工夫が19世紀後半の雰囲気を醸し出しているようです。また序曲の時には、ホール設置のパイプオルガンを弾く怪人(ラミン・カリムルー)の姿が見えたりもしました。
 シャンデリアはずっと高いところにあって動きませんが、下がったり上がったりする幕やバレエのセットの映像を出すなどしながら、物語が進んでいきます。コンサート形式というのは幅があって、かなり曖昧な表現ですが、この公演は音楽重視ではなく、出演者に本公演に近い演技主体のパフォーマンスを求めているようです。本公演と違うのは、舞台の大きさと人数で、それを生かすために、バレエの場面や"マスカレード"が拡張されています。最初の「ハンニバル」ではムチを持ったダンサー(ロイヤル・バレエの若手プリンシパル、セルゲイ・ポルーニン)が常に映像の中心にいて、大きな技がきまった瞬間には拍手が起こっていました。 代役のカルロッタ(ウェンディ・ファーガソン)は典型的なカルロッタで、それはそれでいいのですが、全くタイプの違うキーラ・ダフィーだったら、どんなカルロッタだったのかは観てみたかったです。

 クリスティーヌ(シエラ・ボーゲス)は最初おどおどしています。"Think of Me"の歌い出しは、いかにも自信なさげで、ろくに声も出ません。周囲の人たちもやれやれ困ったものだという顔で、彼女の方を見ずに、見たとしても冷やかな一瞥を送るくらいであれこれ話している雰囲気です。マダム・ジリーの一喝で歌らしくなり、次第に自信を持って歌うようになると、周囲の目が変わっていきます。通常の舞台だと、そこまでは見えなかったので、新鮮な発見でした。
 歌の後半で正面のボックス席にいるラウル(ハドリー・フレイザー)が映ります。グランテールではやさぐれた酔っ払いでしたが、今度は貴族の青年です。姿形もですが、歌声も別人のような響きです。
 怪人のラミン・カリムルーも去年のアンジョルラスとはだいぶ違います。アンジョルラスは多くの男女を惹きつけるカリスマでしたが、今回は恐れられながらも女性を魅了する存在のようです。観客はともかく劇中の男性を惹きつけることはありません。通常の本公演とは違う理由でクリスティーヌを失神させる魔力が、今回の怪人の持ち味でしょう。
 ラウルのハドリー・フレイザーだけは初役ということですが、ラミン・カリムルーはロンドンで怪人役、シエラ・ボーゲスはラスベガスでクリスティーヌ役で、それぞれ「オペラ座の怪人」に出演してきたそうです。三者三様に感情の振り幅が激しく大きなパフォーマンスでした。

 Act 1が終わったところで休憩をどうするのかと思っていたのですが、そのまま上映は続けられました。1日4回上映するためには、しかたがないところでしょう。最初の時は1人で行った上に、周りに人のいない席だったので、大して気にしませんでしたが、2度目に友人たちと一緒だった時は観ていていろいろ話したくなりました。上映が3時間以上だからということもあるし、話をするためにも休憩はあった方がよかったと思います。最初の時も周りに人がいたら知らない人でも話しかけていたかもしれません。何もなかったのですが、もしプログラムがあったら、あの俳優はだれなのか、どういう人なのかを確認しようとする人もいたでしょう。アントラクトの間は扉の開閉が何度かありました。

 Act 2では、最初からクリスティーヌは怪人への恐怖を口にしていますが、本心ではただ恐れているだけではないのかもしれません。ラウルとの婚約を秘密にしようというのは、特に誰か知られたくない相手がいるということも考えられます。ラウルへの愛が嘘というわけではないのでしょうけれども、無意識のうちに何かを感じているようにも見えます。それゆえに怪人への恐怖を表に出しているという見方もできそうです。墓場の場面で、怪人の声に反応したことでラウルがそのことに気づき、"The Point of No Return"で彼女自身も気づきます。
 Act 1で仮面を取った時は恐ろしくて顔を背けたのに、この時は真正面から仮面を取った怪人の顔を見つめ、決して目を逸らしません。ここから最後までは、自分が呼吸できているのかどうかもわからないくらいに緊迫した思いでした。いったん去ったクリスティーヌが戻ってくるところ、怪人に心を残しながら去っていくクリスティーヌ。私が今までに観た最高の「オペラ座の怪人」だと思っている、十数年前のロンドンで観たクリスティーヌはこうだったと思い出しました。
 このあたりで、かなり涙腺が危険な状態です。そこへメグ・ジリーが現れて、残された仮面を手にする。その仮面は怪人の魂で、クリスティーヌへの思いが封じ込まれている。そういう風に思ったところで、涙腺は決壊したのでした。

 物語はここで終わりですが、ミュージカル公演の中継映像なのでカーテンコールがあります。会場の拍手とシンクロするように映画館の席で拍手していると、自分もその場にいるような気持になれます。通常の映画ではあまりしないことかもしれませんが、ワールドカップのパブリック・ビューイングでも声を上げて応援するように、参加した方が楽しみが深まるように思います。

 通常のカーテンコールに続いて、25周年記念の特別カーテンコールが始まります。アンドリュー・ロイド=ウェバーが登場してスピーチ。オリジナルのスタッフと当日のスタッフを紹介。振付のジリアン・リンは85歳とは思えません。キャメロン・マッキントッシュもいますが、去年とは違って今回はひと言もしゃべりません。ロイド=ウェバーは続けて亡くなったマリア・ビョルンソンについて語り、またオリジナル・キャストで亡くなった人を紹介。そして、オリジナル・キャスト登場。しかし、「レ・ミゼラブル」と違って、みんなで歌う曲がありません。最後にオリジナル・キャストであり、彼にとってのミューズだったサラ・ブライトマンが紹介され、"The Phantom of the Opera"が始まります。
 彼女がクリスティーヌのパートを歌い始めると、4人の怪人役者が登場。カナダ・オリジナル・キャストのコルム・ウィルキンソン、オーストラリア・オリジナルのアンソニー・ワーロウ、現ロンドン・ファントムのジョン・オーウェン・ジョーンズ、次期ロンドン・ファントムでスウェーデン人のペーテル・ヨーバック。去年はジャン・バルジャン・カルテットでしたが、今年はファントム・カルテットということでしょうか。マイケル・クロフォードも「オズの魔法使」昼公演を終えた後に姿を見せていましたが、残念ながらソロは歌いませんでした。
 続いて"The Music of the Night"。こちらもファントム・カルテットで始まりましたが、最後は大合唱、マイケル・クロフォードが歌っている顔も映りました。クレジット・タイトルは人数が多すぎて、観ているうちに音楽が終わり、会場のざわつき音も拾わなくなってしまったので、しばらく無音でした。1回目はひとりでむなしく拍手していましたが、2回目の時は少しずつ館内に広がっていきました。カーテンコールの間に涙腺は無事におさまっていました。

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