「ロミオ&ジュリエット」@赤坂ACTシアター

 フランス版のCDを何度か聴いたことはあります。宝塚で何度か上演されているのは知っていましたが、あいにくと観る機会に恵まれませんでした。むろん「ロミオとジュリエット」の物語は知っていますが、このミュージカルについては、フランスのミュージカルということ以外はほとんど何も知らずにいました。
 フランスのミュージカルというのが、まずけっこうな曲者もです。ラスベガスで観た「ノートルダム・ド・パリ」、来日公演のあった「十戒」。ブロードウェイやロンドンのミュージカルに慣れていると、戸惑うことがあります。声量豊かに朗々とうたい上げられる楽曲。アクロバットのように派手な動きを見せるダンサー。完全に役割が分けられていて、歌の人は踊らず、ダンサーの人は歌わない。全部かどうかは知りませんが、「ノートルダム・ド・パリ」では音楽は録音でした。私の好みに合わなかったのは、歌はあくまで歌、ドラマ部分は付け足しのように見えたことです。歌によってドラマを構成していくという発想ではなく、物語のついたコンサートのように思えました。「レ・ミゼラブル」もパリで最初に発表されたものは素材の良さは高く評価されたものの、世界的な大ヒット作、名作とされたのはイギリスで大幅に作りかえられてからです。
 今度は「ロミオ&ジュリエット」なので、ドラマ性がないわけはありません。もっともシェイクスピアの原作通りというわけでもありません。さらに、日本版独自の変更もあるようです。古典の物語には、現代の視点による何らかの解釈が必要でしょう。対立する集団に所属する男女の悲恋というところを、1950年代のニューヨークにおける東欧系移民の少年とプエルトリコ系移民の少女の悲恋にしたのは「ウェスト・サイド・ストーリー」でした。

 この「ロミオ&ジュリエット」はヴェローナのモンタギュー家とキャピュレット家の対立の中で起こる物語というところは原作のままです。しかし、原作の14世紀ではなさそうです。ロミオ(山崎育三郎)はスーパーフォンを持ち女性たちからの留守電メッセージをせっせと消しているしジュリエット(フランク莉奈)の携帯番号を聴いたりもするし、ロレンス(安崎求)はPCで何やら検索しながら薬の調合をしていたりします。ヴェローナ大公(中山昇)は街の再開発の妨げになるからと、両家の対立を収めるよう命じたりします。といって、現代というわけでもないでしょう。現代であれば、ジュリエットの仮死を医者が見抜けないわけがありません。ティボルトを殺したロミオが追放だけで済むはずもありません。ジュリエットの部屋は14世紀といっても通りそうだし、キャピュレット夫妻(石川禅、涼風真世)の結婚観も現代のものとは思えない。"無国籍"というカテゴリーがありますが、これは"無時代"と言ったところでしょうか。元の時代ではないけれども、現代でもない。現実に存在した時代と場所ではなく、いつなのかどこなのかわからないけれども、この物語を伝えるために創り出された特別な世界ということです。この特別な世界で、人々の目には見えない死のダンサー(大貫勇輔)が妖しく踊るのは、生と死との境目が現実よりも曖昧なのかもしれません。だから、"仮死"を医師でも見抜けない。

 携帯電話を持ち、メールを駆使することで、メッセージが伝わる速さが現代の感覚に合うようになっているように思います。「ロミオとジュリエット」には"伝えられるべきメッセージが伝わらない"ことによる悲劇という要素がありますが、最も重要なメッセージ、ジュリエットの"仮死"についての知らせが届きません。携帯電話やメールのメッセージに限らず、ロミオの発するメッセージは親友ベンヴォーリオ(浦井健治)もマキューシオ(石井一彰)も、両親(ひのあらた、大鳥れい)にも伝わらず、ロミオは人を避けます。従妹を愛しながら叔母との秘め事があるティボルト(平方元基)、夫よりもティボルトへの愛が本物のキャピュレット夫人、ロミオの留守電にメッセージを残した女性たちの気持。どれも相手には伝わらない、あるいは歪んで伝わります。
 読書ならば自分のペースなので、読みながら補正していくことができますが、観劇中は物語が次から次へと進行していくのをコントロールすることはできません。劇中で携帯電話やPC、メールが使われているのはメッセージが届く速さを現代の日常的な実感に近づける工夫としての意味があるかなと思います。フェイスブックはあまり効果的とは思えなかったのは、メールとの浸透度の違いでしょうか。原作通りのスピードで伝えられるのは、乳母(未来優希)を介してジュリエットからロミオへ送られるメッセージだけのようです。そして、このメッセージは劇中で唯一正しく伝わります。ジュリエットが特別な存在ということにもなるでしょう。その特別な純粋さは死のダンサーを呼び寄せてしまいます。それもまた、悲劇の要因に違いありません。
 いろいろなところでシェイクスピアから離れていますが、メッセージの伝わらない悲劇、純粋さのために暴走してしまう悲劇というところと、ロミオとジュリエットが出会い、互いに強く引き合うドラマは、このミュージカル「ロミオ&ジュリエット」でも生きていたと思います。

 ジュリエット役は新人で、私が観たフランク莉奈は舞台は初めてという高校生だそうです。演技の経験がないので、上手くはないのですが、とても上質な天然素材という感じでした。高い声は不安定ながら出る。力のある声でロングトーン。訓練と経験を重ねて今後伸びていく可能性があります。演技も等身大の18歳らしい場面はいささか心もとないのですが、ジュリエットの激しさを表現する、本人自身の経験や実感を越えたところが求められる場面はむしろ自然に見えました。
 ロミオも含めて他の人たちは、衣装にも表れていますがどこか汚れた感じがあります。両家の争いであったり、大人の世界の不純さなのかもしれません。そのどちらとも無関係に、ひとり真っ白な姿のジュリエットでいられるのは、フランク莉奈の大器の証かもしれません。

 終演後の楽屋口にはたくさんの人が集まっていました。昼公演の出待ち、夜公演の入待ちと両方と聴きましたが、多くの人はプログラムを持っていたようです。ちょっと寄り道をして、再び同じ場所へ来ると、フランク莉奈が女性客たちのプログラムにサインをしているところでした。彼女だけを待っていたわけでもないでしょうけれども、なかなかの人気のようでした。



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