「100万回生きたねこ」@水天宮ピット

  水天宮ピットという会場は初めてです。行く前に調べると、場所は名前の通り水天宮の近く、移転した都立高校の施設の再利用だそうです。オープンしたのは去年、運営は東京芸術劇場。半蔵門線の水天宮前駅のすぐ近くです。いつもなら自転車で行く距離ですが、午前中に寄るところがあったので、半蔵門線を使いました。水天宮前駅は、東京シティエアターミナルに隣接している関係で、改札を出たところにあるのは、普通のエスカレーターではなく、動く歩道です。正確に言うと、動くスロープです。海外へ行くのに大きな荷物を転がしていく人のためでしょう。乗ってしばらくは、平らなところを進み、途中から斜面になります。この傾斜がかなり急で、大荷物なしにまっすぐ立っていようとすると、頭を後ろに引っ張られたような感じで、バランスを崩しそうになりました。まあ、おもしろい乗り物と考えられないこともありません。

 「100万回生きたねこ」は、読んだことはありませんが、題名くらいは知っている、有名な絵本です。近所の図書館で所蔵を確認するだけして、持論である予習より復習を実践する意味で、あえて事前には読みませんでした。復習を実践するために、帰りに図書館で借りてきたので、今は原作も読んでいます。
 今回の公演は"リーディング発表会"と銘打たれています。そのことについて開演前に説明がありました。オリジナル・ミュージカル制作には、プロセスとしてブロードウェイで行われているような、リーディング⇒ワークショップ⇒トライアウト⇒プレビュー⇒本公演という流れが望ましい。しかし、これまで日本ではそういうことはほとんど行われてこなかった。そこで、3人の新進劇作家に「100万回生きたねこ」のミュージカル化を前提とした脚色を依頼。話の印象では本来はコンペティションのつもりだったのではないかと思われますが、上がってきた3つの脚本を東京芸術劇場芸術監督の野田秀樹の意見も受けて再構成。さらに練り上げていくために、現段階での脚本でリーディングを行ない、観客の意見を聴くという趣旨の公演のようです。

  最初、舞台上には6人。彼らはアンサンブルで主人公のねこが関わる人や動物のキャラクターを演じるのと、場面ごとに交代でト書きを読みます。ト書きらしく読みますが、「エビータ」のチェ、「エリザベート」のルキーニ、「ブラッド・ブラザース」のナレーターのように、物語の一部になりながら、客観的な説明もしていきます。以前、ある絵本作家から聴いた話ですが、絵本というのは絵と言葉が同時に頭に入ることが望ましいので、読み聞かせという形が理想的なのだそうです。その意味でもナレーターが存在することで、絵本の世界らしさが生まれていると言えるかもしれません。
  数字が段階的に増えていき、やがて100万に届く。そこでタイトルコール。主人公のねこ(玉置玲央)が登場して、100万回生きたことの自慢を始めます。しばらくすると白いねこ(笹本玲奈)が静かに現れます。ねこは白いねこに自慢話を聞かせようとしますが、彼女は「そう」としか応えません。
 100万回生きた話というのは、かれが何度も生まれ変わった、言いかえると何度も死んだ時の話です。かれの飼い主たちは悲しんだことが想像できますが、かれにとってはどうでもいいことのようです。かれにとっては、自分のことが第一で、それ以下のものは眼中にありません。そんな思いの間は、何度でも生まれ変わるのでしょう。5つか6つのエピソードが語られた後、今度は飼い主のいない、のらねことして生まれ変わります。多くのめす猫達にちやほやされますが、100万回生きたかれにとっては彼女たちでは自分に値しないと思っています。唯一、かれをちやほやしないのは白いねこだけです。かれは「おれは100万回生きたんだ」というかわりに「そばにいってもいいか」と話しかけます。
 そして、ねこと白いねこは夫婦となり、子猫たちが生まれます。やがて、子供達は成長して、独立していく。ねこと白いねこは年老いて、ついに白いねこは先立ってしまう。今までは、飼い主を残して死んでしまっていたかれは初めて残される悲しみを味わいます。昼も夜も泣き続け、泣きやんだ時には生命も尽きた時でした。そして、二度と生き返りませんでした。

  おもしろい物語で、結末は感動的でもありました。しかし、ミュージカルにすることが前提となると、いくつか疑問が残ります。
 いちばんの問題は、"どこを歌にするのか?"です。「キャッツ」のように、すべてを歌にするという考え方もあります。ト書きという名のナレーションを歌にして、セリフ部分はしゃべらせる浪曲のようなつくりもありえます。いちばん受け入れやすいのは独白や傍白を歌にすることでしょう。独白や傍白を現実に言っている人がいたら変ですが、舞台ではごく当たり前なので、突然歌い出しても不自然には映りません。どういうやり方でもいいのですが、このリーディングの段階では、そこのところは今後の検討課題のようでした。
 次は構成の問題。絵本を読んだところ、ねこの生まれ変わりのエピソードは膨らまされているとはいえ、原作通りの内容で、順番も原作通りでした。飼い猫だった時のエピソードが6つ。すべて見開き2ページで、同格の話が並列されています。絵本ならばそれでもいいのですが、ここではちょっと変化に乏しいと感じました。6つのエピソードは飼い主のキャラクターも違うし、ねこが絶命する理由にも変化がありますが、減らすことや、もっと別のエピソードをつくることを考えてもよさそうです。

 原作では6つのエピソードが終わった後で初めて登場する白いねこが早い段階から舞台上にいて、ねこは「そう」としか応じない白いねこへの意識が明らかに大きくなっていくように見えます。生まれ変わりのエピソードは、最初のうちは、"みんな聞けよ"という調子で、誰にともなしに披露していますが、途中からは、彼女に対して語っているのではないかと思います。一方、白いねこの「そう」は、無関心なのではないでしょう。途轍もない話に戸惑っているかもしれませんが、「そばにいてもいいか」を受け入れるくらいに、ねこの話もちゃんと受け止めているはずです。
 エピソードの合間に、ねこから白いねこへの語りかけが何度か挟まると、自分のことしか見えていなかったねこにとっての白いねこの存在が大きくなっていく過程がわかりやすくなりそうです。白いねこの「そう」が変わっていくのも、もっとたくさん観てみたい。今回は歌は少なかったのですが、白いねこの歌は、彼女の気品とこころの深さが美しく伝わってくる絶品でした。また、これは脚本上のことですが、原作にはない白いねこがネズミをくわえているというト書きも、彼女の美しさがお姫様の美しさではなく、現実をたくましく生きている美しさを表しているように響いてきました。

 終演後に3人の劇作家が登場して自身が書いた部分についての解説などがあり、さらに出演者も戻ってきて稽古場でのエピソードを紹介した後、将来のミュージカル化に向けての観客との質疑応答がありました。司会者からの問いかけは、どの場面がよかったかというものでしたが、個別の場面について面白かったかどうかは、あまり重要でないように思います。
 3曲程度の歌が入る芝居という作りという方向なら、そういう問いかけにも意味があるかもしれません。しかし、ミュージカル化が最終目標なら、上に長々と書いたような、音楽をどう使うのかということを中心にした骨格作りが先ではないかなと考えます。
 それと、この作品を選んだ理由も気になります。猫が主人公のミュージカルというと「キャッツ」があり、馬場のぼるの絵本を井上ひさしが脚色した「11ぴきのねこ」があり、四季の「人間になりたかった猫」というのもあります。猫とミュージカルは相性がいいのでしょうか。

 終わって外へ出たら、けっこうな雨が降っていて、雷まで鳴っていました。予報では夕方以降に雨ということだったので、合羽の用意はありましたが、傘は持っていませんでした。大した距離ではないので、ちょっと小降りになるのを待って、早足で駅へ。下りの動きスロープもちょっと怖い乗り物でした。地下鉄を出た時には、雨は止み、日まで射していました。


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