「雪ん子」@劇団四季自由劇場

 これから年末年始にかけての特別公演として交互に上演される2つのファミリーミュージカルのうちの一本です。夜公演とはいえ、座席に大きなクッションを置いて、その上に座っている子どもたちがところどころに見えます。上演時間が休憩を入れて2時間弱というのも、幼い観客を想定してのことでしょうか。
 「雪ん子」はオリジナル・ミュージカルですが、原作があります。もっともクレジットされている斎藤隆介「ゆき」はたぶん室町時代、野武士に襲われるような村という「七人の侍」のような設定で、雪娘は悪を退治して帰っていくというかなり激しい物語です。対して、このミュージカルは江戸の町が舞台で無垢な雪ん子が薄幸な人々を幸せに導くという心優しい物語なので、原案と呼ぶ方が妥当かもしれません。1975年の初演で、今回は9年ぶりの上演にということです。

 さて、その薄幸な人々の代表は、度重なる江戸の地震や火事で親を亡くした子どもたち(萩原隆匡、笹岡征矢、山本道、白澤友理、荒木舞、桜小雪)です。彼らはスリの親方・義平次(牧野公昭)の元で働かされています。ちょうど「オリヴァー!」の子どもたちとフェイギンの関係のようです。その様子を天上から見ていたのが雪の王(石原義文)、妃(横山幸江)と娘のゆき(笠松はる)。12歳になったのを期に地上へ修行に行くゆきは、子どもたちにスリをやめさせ、幸せへの道筋をつけることを修行のテーマに決めます。ここは映画の「回転木馬」で不幸な少女ルイーズのために、主人公ビリーが地上へ降りる決意をするという設定を思い出しました。そして、地上へ降りたゆきが最初に出会う人さらい(加藤敬二)は「チキチキ・バンバン」のチャイルド・キャッチャー。
 真っ白で無垢なゆきは、かんたんに人さらいに騙されて、葬儀屋黒兵衛(川口雄二)とその妻つぎ(羽永共子)に売られそうになりますが、そこへやってきた俵屋の番頭平助(神保幸由)が取引に口出しをしたことで混乱が起こって、ゆきは逃げ出し、スリの一団の仲間になります。
 スリの親方・義平次はフェイギンほどの悪党ではなく、スリではたいした稼ぎにはならないし他にできることがあるなら子どもたちにスリなどさせたくはないというのが本心です。しかし、彼自身足が悪く、子どもたちにできる仕事も簡単には見つかりません。そこへ、おそらくこの物語でいちばんの悪党である平助が、子宝に恵まれない俵屋の主人夫婦(山口嘉三、菅本烈子)が、たまたま見かけたゆきを百両出しても引き取りたいという話をもちかけます。百両あれば、まともな商売の元手になるし、子どもたちをそこで働かせることもできます。平助は手付として25両を置いていく。話をきいていたゆきは、そういうことならと俵屋のもとへ行くことにします。

 俵屋でゆきはきれいな着物をきせてもらっていますが、お人形さんのような扱いです。スリの子どもたちと話すどころか、外へ出ることもままなりません。しかも、平助は手付の25両を出しただけで残金は自分の懐へしまいこんでいます。このまま無為に時間が過ぎて春が来てしまったら、ゆきは天上へ帰らなければなりません。ウグイスは啼き方を覚えていき、ゆきの身体は弱っていきます。
 ゆきで儲けそこねた人さらいや葬儀屋夫婦は俵屋から大金をゆすりとろうとする。義平次と子どもたちは、お金は返すからゆきを返してほしいと俵屋へ押しかける。言い争いが続く中、ウグイスが春を告げる啼き方。ゆきは倒れてしまいます。最後の願いを語りますが、それに対する答を聞けないままに、彼女は天上へと帰っていきます。
 両親の前でゆきは何もできなかったと悲しみますが、地上では小さな変化が起こり始めていました。

 人さらい役の加藤敬二が振付も担当していて、すばしこいスリたちが軽快に跳ね回ります。ゆきの笠松はるの澄んだソプラノは、純真無垢なゆきというキャラクターに合います。強さもある声が実在感を作り出しているようです。新妻聖子や笹本玲奈とは違ったタイプの歌姫です。
 葬儀屋夫婦と人さらいによる、俵屋へのかけあいは「源氏店」を借りて来たもので、多少浮いた感じもありますが、遊びを入れようとする意図が見えます。「オリヴァー!」や「チキチキ・バンバン」の要素がみえるのは、初演の1975年という時代にオリジナル・ミュージカルを作ろうとしたときに、ミュージカルの物語にはまる設定の型を、既存の作品から得たということでしょうか。物語の中での展開のしかたは別で、フェイギンやチャイルド・キャッチャーは極端すぎる言動で笑いを誘うところはあるものの基本的にはわかりやすい極悪な存在ですが、義平次や人さらいはさほど悪い人間ではないようです。もっと悪い人が出てきてもいいのではという思いもありますが、バランスが難しそうです。この作品の場合は、天上の姫で純真無垢なゆきが発見する地上世界の生活なので、極端すぎる悪ではなく、彼女が受け止められるような、日常的にみられるような悪が妥当なのかもしれません。

 カーテンコールの最後はほとんどの出演者が通路をかけぬけて後方の扉から外へ出ていきました。こうなれば、それ以上のカーテンコールはありません。上着をきて出口へ向かったら、ロビーで握手会が始まっていました。他の団体ではみたことがありますが、四季の公演では初めてです。私には初めてということで、ファミリーミュージカルでは時々やっていることだそうです。


amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ゆき (講談社青い鳥文庫 16-1) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル






この記事へのコメント

この記事へのトラックバック