「スルース(探偵)」@劇団四季自由劇場

 プログラムに作者アンソニー・シェーファーによる献辞が載っています。「この劇をブラウン神父、フィリップ・トレント氏、マックス・カラドス氏、レジナルド・フォーチュン博士、ロジャー・シェリンガム氏、アルバート・キャンピオン氏、ナイジェル・ストレンジウェイズ氏、ピーター・ウィムジイ卿、ギデオン・フェル博士、ムッシュー・エルキュール・ポアロ、これら万能にして気まぐれなアマチュアの紳士諸氏すべてに、心からの敬愛の念をこめて、捧ぐ」。初めて見る名前もありますが、最初にあるブラウン神父、最後のムッシュー・エルキュール・ポアロから、古典的な探偵小説のメイン・キャラクターだろうと想像できます。探偵小説。推理小説とかミステリとかではなく、探偵小説です。
 探偵小説の探偵は通常、detectiveなのですが、あえてスルースsleuthという単語が選ばれています。英和辞典には、刑事や探偵という意味だが、いまはあまり使われないと出ていました。使うとしたら、sleuthhound(警察犬)の略のようです。同じ電子辞書のオックスフォード辞典にはold-fashioned or humorousとあります。つまり、探偵というものを示す、いささか古臭い言葉、少々間抜けに響く単語ということでしょうか。

 最初に主人公アンドリュー・ワイク(志村要)が書き上げた探偵小説の結末が読み上げられます。それを聞く限りでは、この人は探偵小説作家としては、明らかに三流です。トリックもひどいですが、そのトリックで悦に入っているのが、なおひどい。それでも著書はそれなりに売れていて、それなりの富と名声があるようです。献辞にあった第一級の探偵たちが活躍していた時代には、後世に残らなかった三流の探偵小説があり、それを書いた三流の探偵小説作家がいたのでしょう。
 その三流探偵小説作家がある企みをもって、ミロ・ティンドル(下村尊則)という男を家に招きます。ミロはアンドリューの妻を寝盗った男です。アンドリューと妻との関係は冷え、贅沢三昧にひたる妻にアンドリューはうんざりしていますが、寝盗られるのはプライドが許しません。この男を痛い目に遭わせなければならない。アンドリューの策略は、彼の小説とは比べものにならない上等なもので、ミロはその罠にはまりこんでいきます。そして、銃声が響く。
 二幕では警察からドプラー警部(松本克弘)がやってきて、アンドリューの仕掛けた罠を暴いていきます。タラント部長刑事(三浦康雄)、ビッグズ巡査(稲葉薫)の声が聞こえてくるころには、アンドリューはすっかり追い詰められてしまいます。

 探偵小説というのは、だましと謎解きのゲームで、この芝居もあの手この手のだましの罠に満ちています。幕が上がる前から、劇場に入った時から、その罠は始まっています。献辞にあったように、アンソニー・シェーファーは1920年代1930年代の古典的な探偵小説のおもしろさを、1970年代に演劇として再現しようとした。その成果がこの「スルース(探偵)」なのでしょう。

 15年くらい前にロンドンで「スルース」の再演を観たことがあります。この時は、セットが現代的なインテリアになっていました。音楽をかけるにはリモコンでCDをかける。電話はコードレス。そうなると、よくいえば古典的、アンドリューについていうなら古臭い探偵小説の世界と整合せず、どうも落ち着かないものでした。今回の劇団四季版はタイプライターといい、部屋の調度といい、いかにも年期の入った部屋のしつらえ。最後に聞こえてくるパトカーの音まで古臭い探偵小説的世界。そんな中での知的決闘の顛末を楽しみました。しかし、プログラムには全キャストのプロフィールをちゃんと載せた方がいいでしょう。この場合、端役の写真はなくてもいいので。


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  • 劇団四季:スルース(探偵)

    Excerpt:  今回のストプレは劇団四季のストレートプレイスルース(探偵)を見てきました。  前回のストプレは去年のエクウス(馬)だったので、1年以上ぶり。久々の観劇です。 Weblog: よしなしごと racked: 2010-11-23 22:44